信じ過ぎると痛い目にあった時の衝撃は大きい。

かと言って、信じないというのも、女として寂しいものだ。

隼のまっすぐでミステリアスな目を、見続けていれる自信が、わたしには無かった。

歩道を挟んですぐの二車線の車道を、穏やかなスピードで走る車の音を聴きながら、わたしは下ばかりみていた。

「ぼく達の赤い糸、を信じてみませんか」

と隼は言い、優しい声で話し続けた。

「本物の赤い糸は色褪せないし、切れる事はないんだって。だから、ぼく達が赤い糸で繋がっているとしたら、何年経っても、どんなに離れていてもまた会えるよ」

「そうとは限らないわ。偽物かもしれないもの」

下を向いたまま、わたしは答えた。

もし、本当に、目に見えない糸で隼と繋がっているのなら、わたしは確かな証拠が欲しい。

「隼、連絡先を教えて。有給休暇を使って、会いに行くわ」

「その必要は無いと思うけど」

「どうして」

「赤い糸で結ぶからさ」

そう言って、隼はわたしの顔の前で、十本の指を巧みに動かした。

わたしの胸元から見えない糸を引っ張り、隼も自分の胸元から見えない糸を引っ張る仕草をした。

そして、それを空中で二重に三重に、何度も何度も結んだ。

「うん。これくらいきつく結べば切れることはないね」

「いやだわ。若いくせに、ロマンチストなのね」

わたしがクスクス笑うと、隼は照れ臭そうに頬を薄紅色に染めた。