「真央!きみは何かを勘違いしているようだ。現実を見ろ」

「現実?見ているわ」

「そんな金も無い、まだケツの青い子供にうつつを抜かしていると、痛い目を見るぞ」

「お兄さん。ぼくのケツはちゃんと肌色さ。それにお金ならあるよ、千円もある」

そんな事を涼しげな顔をしてさらりと言い、隼は楽しそうに笑うものだから、わたしまで笑うしかなかった。

年甲斐もなく、わくわくしていた。

わたしは隼の手をクイクイと引き、

「隼、わたし、今からとてつもなく格好いい事を言うわ。聴いていて」

そう言って、にたりと口元を緩めた。

「へえ、楽しみだ」

「二十五歳、崖っぷち女の名言よ」

「二十五歳、崖っぷち女の名言だね」

駅前に建ち並ぶショップの明かりはほとんど消えて、クリスマスツリーのイルミネーションばかりが、とても鮮明に浮かびあがっていた。

ツリーの下でスーツをピシッと着こなして、勝ち誇ったような顔で立っている亘に、わたしは怒鳴った。

「格好と見栄ばかりの嘘つきな男より、ケツの青い子供のほうが、よっぽど最高だわ」

亘は埴輪のような殺風景な表情をこしらえて、背中を丸めて立ち尽くしていた。

「それと、これはもう、重すぎてわたしの指には必要ないの。サイズ違いもいいところだわ」

そう言って、わたしはぴったりなサイズの婚約指輪を、亘に突っ返した。

「行こう、真央さん」

「ええ」

わたしと隼は強めに手を繋ぎ、大通りを駆け出した。

人生最高の気分だ。