亘の子を妊娠している、そう環奈から言われて、わたしは苦しくて悔しくて、生きて行かれない、そう思っていたのに。

わたしは、今、何をしているのだろう。

今にも死にそうだったのに、初めて会った十七歳の隼とご飯を食べて、クリスマスツリーを見つめて、励まされている。

親友の環奈が、わたしを裏切るなんて、わたしはこれっぽっちも思っていなかった。

環奈が、わたしを裏切った。

婚約者の亘が、約束をズタズタに切り裂いた。

大切な二人が、同時に居なくなった。

クリスマスツリーを隔てた向こうにあるCDショップからは、パッヘルベルのカノンが流れていた。

「ぼく、カノンが好きなんだ。最近はロックだのR&Bだの、そういうのが主流だろ。でも、ぼくはそっちよりもクラシックが好きなんだ」

隼はカノンの音色に耳を澄ませて小さく鼻歌を奏でていたけれど、わたしはどんどん気が滅入って、カノンが流れ終わった頃には再び不幸のどん底に立ち尽くしていた。

カノン、を亘がよく聴いていたからだ。

亘の部屋へ遊びに行くといつも流れていたし、ドライブ中も、真夜中の電話越し に聴こえているのも決まって、カノンだった。

わたしは、ひどく惨めだ。

今日からは独りぼっちだ。

「真央さん、また、会ってくれる」

隼が訊いた。