その日の授業中、ノートに書いていた文字を見て、
玲那ちゃんが小さな声で話しかけてくれた。

「あ、それ……“る”じゃなくて、“れ”かも」

「……あっ」

気づかないうちに、漢字の部首を間違えてた。
玲那ちゃんは笑って、「私もよくやるんだ〜」って、気にした様子もなかった。

なんだか、嬉しかった。

声をかけてもらえたこと。
それを「うれしい」って思ったこと。

その全部が、まだちょっとだけくすぐったくて。

でも、
今までの私にはなかった感情だった。

ありがとう、って言いたかったのに。

その言葉は、
やっぱりまだ、喉の奥で止まったままだった。