過つは彼の性、許すは我の心 弐

 

 おばあちゃんの時は普通の個室で看取る感じだったから、入る事は無かったんだけれど、イメージしていた場所とは少し違っていた。


「此方です」


 ICUの病棟は、それぞれ病室が区切られており、全体的にオープンの造りになっていて、恐らく異常や急変に直ぐに対応できる仕様なのだろう。

 患者は呼吸器を付けたり、色んなモニターや管が繋がっているのが多く、出来るだけ目が行かない様にカズミさんの後を追った。

 そして、圭三郎さんが看護師と話している部屋の前。


「綴様、どうぞお入り下さい」


 胸がドクンッーーーと鳴った。

 妃帥ちゃんの眠るベッドに近付く。

 そこには酸素のマスクや点滴、大きなモニター等が取り付けられた妃帥ちゃんがいて。

 ベッドサイドに立って青白い彼女を見つめる。

 妃帥ちゃん…。

 私の心の声が聞こえたかの様に、


「妃帥ちゃん?」


 瞼を閉じていた筈の美しいアーモンドアイが、そろりと開かれる。

 透明なマスクの中で、血の気の無いあの熟れた柘榴の様な唇が動く。

 駄目だ聞こえない。


「圭三郎さん、もっと近付いても大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「手を握っても?」


 圭三郎さんが頷いた事を確認し、身体を屈めて、布団の中に仕舞われた手を握る。


「妃帥ちゃん来たよ」

「つ…つづ…り」

「うん居るよ此処に」


 涙が出そうになった。