おばあちゃんの時は普通の個室で看取る感じだったから、入る事は無かったんだけれど、イメージしていた場所とは少し違っていた。
「此方です」
ICUの病棟は、それぞれ病室が区切られており、全体的にオープンの造りになっていて、恐らく異常や急変に直ぐに対応できる仕様なのだろう。
患者は呼吸器を付けたり、色んなモニターや管が繋がっているのが多く、出来るだけ目が行かない様にカズミさんの後を追った。
そして、圭三郎さんが看護師と話している部屋の前。
「綴様、どうぞお入り下さい」
胸がドクンッーーーと鳴った。
妃帥ちゃんの眠るベッドに近付く。
そこには酸素のマスクや点滴、大きなモニター等が取り付けられた妃帥ちゃんがいて。
ベッドサイドに立って青白い彼女を見つめる。
妃帥ちゃん…。
私の心の声が聞こえたかの様に、
「妃帥ちゃん?」
瞼を閉じていた筈の美しいアーモンドアイが、そろりと開かれる。
透明なマスクの中で、血の気の無いあの熟れた柘榴の様な唇が動く。
駄目だ聞こえない。
「圭三郎さん、もっと近付いても大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「手を握っても?」
圭三郎さんが頷いた事を確認し、身体を屈めて、布団の中に仕舞われた手を握る。
「妃帥ちゃん来たよ」
「つ…つづ…り」
「うん居るよ此処に」
涙が出そうになった。



