私の声に人がいた事を思い出した様で、視線をゆるりと合わせた。
その瞬間、ゾワリと怖気立つ。
身体中が早く平伏しろ、許しを請えと言われる様な生物としての本能。
彼が私に一歩踏み出し、私は足を一歩後退させた。
獅帥君と私達。
生物として格の違いを見せつけられる威圧感は、久々の感覚だった。
『し、獅帥君』
『…』
獅帥君は私の怯えた様子に、気にもせず近付く。
そして、ピタリと。
『…』
『…』
私の前で一歩踏み止まった。
顔を上げられなかった。
何故だか怖くて、
『お前も、』
いつものゆっくりな言葉使いも、前は早く言ってと思っていたのに、今は言わないでと思ってしまう。
死の宣告を待つ、憐れな弱小生物は震えて待つしかない。
けれどその考えが間違いだったのと気付くのに、時間は掛からなかった。
『ーーー俺を見ないんだな』
『…!』
バッと顔を上げれば、苦悩に満ち溢れる獅帥君が私を見下ろしていた。
『俺はどうすればいい?』
『しす、い君』
『どうやっても上手くいかない。俺には妃帥しかいないのに』
『…』
『妃帥が望む俺って何なんだ?』
言葉も無い。
『教えてくれ綴』
私はーーー…。
『…忘れてくれ』
『獅帥君!』
何も答える事が出来なかった愚者を置いて、獅帥君はその場を去った。



