過つは彼の性、許すは我の心 弐

 

 私の声に人がいた事を思い出した様で、視線をゆるりと合わせた。

 その瞬間、ゾワリと怖気立つ。

 身体中が早く平伏しろ、許しを請えと言われる様な生物としての本能。

 彼が私に一歩踏み出し、私は足を一歩後退させた。

 獅帥君と私達。

 生物として格の違いを見せつけられる威圧感は、久々の感覚だった。


『し、獅帥君』

『…』


 獅帥君は私の怯えた様子に、気にもせず近付く。

 そして、ピタリと。


『…』

『…』


 私の前で一歩踏み止まった。

 顔を上げられなかった。

 何故だか怖くて、


『お前も、』


 いつものゆっくりな言葉使いも、前は早く言ってと思っていたのに、今は言わないでと思ってしまう。

 死の宣告を待つ、憐れな弱小生物は震えて待つしかない。

 けれどその考えが間違いだったのと気付くのに、時間は掛からなかった。


『ーーー俺を見ないんだな』

『…!』


 バッと顔を上げれば、苦悩に満ち溢れる獅帥君が私を見下ろしていた。


『俺はどうすればいい?』

『しす、い君』

『どうやっても上手くいかない。俺には妃帥しかいないのに』

『…』

『妃帥が望む俺って何なんだ?』


 言葉も無い。


『教えてくれ綴』


 私はーーー…。


『…忘れてくれ』

『獅帥君!』


 何も答える事が出来なかった愚者を置いて、獅帥君はその場を去った。