「お願い、傍に」
「大丈夫分かった妃帥ちゃんの傍にいるから、」
だから横になろうと言い掛けた時、妃帥ちゃんはまたもふるふると首を振った。
「どうしたの妃帥ちゃん」
「違う、私じゃな、」
ゴホッ…とそれ以上は続かずに口から血がボタボタと零れる。
「妃帥ちゃん!」
「妃帥!」
ふわりと黒壇色の髪が、宙を舞う。
妃帥ちゃんの意識が無くなった瞬間、重力に負けてベッドへと横たわる。
湖面上に浮かぶオフィーリア。
「妃帥ちゃん!!」
室内に響き渡る私の声に、帰って来る言葉はなかった。
ーーーそれからどうやって病院まで行ったか曖昧だ。
記憶にあるのは、ストレッチャーに乗せられた妃帥ちゃんを見守る事しか出来なかった事。
後は、
『もう何度目なんだろうな』
去って行った妃帥ちゃんを一緒に見送った時に、獅帥君に言われた事。
言われたと言うより、自分に語り掛ける様にポツリと。
『こうやって妃帥が倒れるのを見ている事しか出来ないのは』
獅帥君は自分にベッタリと付いた赤色を見て、
『代わってやる事も、治す事もしてやれない』
そう言いながらギュウっと拳を握る。
『せめて妃帥が望む事は何でも叶えてやりたいのに』
声にはやり切れなさと悲しさが詰まっていて、聞いている此方側まで胸が押し潰されそうだった。
『獅帥君…』



