過つは彼の性、許すは我の心 弐



「お願い、傍に」

「大丈夫分かった妃帥ちゃんの傍にいるから、」


 だから横になろうと言い掛けた時、妃帥ちゃんはまたもふるふると首を振った。


「どうしたの妃帥ちゃん」

「違う、私じゃな、」


 ゴホッ…とそれ以上は続かずに口から血がボタボタと零れる。
 

「妃帥ちゃん!」

「妃帥!」


 ふわりと黒壇色の髪が、宙を舞う。

 妃帥ちゃんの意識が無くなった瞬間、重力に負けてベッドへと横たわる。

 湖面上に浮かぶオフィーリア。


「妃帥ちゃん!!」


 室内に響き渡る私の声に、帰って来る言葉はなかった。

ーーーそれからどうやって病院まで行ったか曖昧だ。

 記憶にあるのは、ストレッチャーに乗せられた妃帥ちゃんを見守る事しか出来なかった事。

 後は、
 

『もう何度目なんだろうな』


 去って行った妃帥ちゃんを一緒に見送った時に、獅帥君に言われた事。

 言われたと言うより、自分に語り掛ける様にポツリと。


『こうやって妃帥が倒れるのを見ている事しか出来ないのは』


 獅帥君は自分にベッタリと付いた赤色を見て、
 

『代わってやる事も、治す事もしてやれない』


 そう言いながらギュウっと拳を握る。


『せめて妃帥が望む事は何でも叶えてやりたいのに』


 声にはやり切れなさと悲しさが詰まっていて、聞いている此方側まで胸が押し潰されそうだった。


『獅帥君…』