唯一自分達を人として愛してくれた人だから、その人の好きな物を好きになった。単純な理由。
誰よりも自分達の事を考えて、そしてーーー…。
『お前達をこんな目に遭わせるつもりなんて無かったのに…!すまなかった…!』
誰よりも傷ついた人。
もっと上手に出来るから、俺出来るから、だから傍にいて。
そう言った自分に、怒りたい様な、悲しんでいる様な、複雑な表情をしたその人は、自分達を目一杯抱き締めてくれた。
居なくならないのか、そう思ったのに。
抱き締めた後、呪いの言葉を吐いて消えた。
行き先は誰も知らない。父すら知らない。
分かっているのは、あの人は2度と戻らない事だけ。
あの人が戻って来るなんて…。
『居なくならないよ』
自分の手を握ったあの人が傍にいるなんて有り得ない。
だからこれは夢なんだ。
『大丈夫、起きるまで傍にいるから』
久々に見る夢は、寝れない夜にずっと傍に居てくれたあの人との一幕。
『おやすみなさい』
自分を想って言われた言葉には、沢山の慈しみと愛が込められていた。
あの時が今まで1番眠れていた…けれど。
「(眠い…)」
温もりを与えてくれる存在がいるせいか、今も微睡に揺蕩う羽目になっている。
不思議な女。
あの人とは似つかないのに、何故だが傍にいると安心する事が増えた。



