過つは彼の性、許すは我の心 弐



 妃帥が周囲に酷く言われるのも、されるのも本意では無い。

 誰よりも妃帥が大事だ。

 でも、


『あらあら…』

『また吐いてしまって』

『汚い』

『食事はしっかり食べましょうね。食事に《《何が》》入っていても』

『うふふっ…』


 口にしてはいけない。


『どうして私は獅帥の妹なの…!?獅帥の妹でなければこんな目には遭わなかった!獅帥なんて…!』


 例え片割れに憎まれようとも。


『憎い憎い憎い…!全てが憎い…!私達が何をしたと言うの!?許さない…全てを、私は…』


 自分には分からない。

 片割れの憎悪の理由を。

 自分には理解しようがない。

 だって自分はオオミカで、カミサマなのだから。

 人の心など理解する必要が無い。

 泰然として、人の全てを受け入れていれば良い。

 自分がオオミカで居続ければ、妹の願いだって自分は叶えられる。

 妃帥が望ま無くても、自分は。


「うん…」


 みじろきする声に、現実に引き戻される。

 笑ったり、呆れたり、怒ったり、忙しい女。

 
『好きなモノトークしようよ』


 女はそう言うのだ。

 彼女曰く、好きなモノを作ると人生が豊かになるらしい。

 人生を豊かに?自分に何の得がある?

 そう思ったのに、出てきた言葉はりんご。

 あの人が好きだった。


『獅帥はりんごが好きなんだね』


 控えめにそう笑ったあの人。

 違う。

 あの人が好きだったから、自分も好きだった。