過つは彼の性、許すは我の心 弐

 

 妃帥ちゃんをオーフィリアに例えた事があったけれど…。

 眠りの世界に誘われている獅帥君の横顔は、穏やか過ぎて逆に不安になる。

 美しさと清幽さが伴うと、死を連想するのは何故なんだろう。

 歌いながら溺死していくオーフィリア。

 彼女は一体何を思い、歌いながら湖に沈んだのだろうか。

 度重ねる悲劇に心が窶れたからか、それとも…。


「どうして…」

「うん?」


 閉まりかけた瞳が私を見て、


「あの時俺が、」

「うん?」

「ちゃんと、役目を、果たせていなかったから、居なくなったのか?」

「…」


 違う。

 《《これ》》は私にじゃない。

 違う誰かだ。


「だから妃帥も怒ってる」

「…」


……寝言に返すと脳が覚醒しちゃうから返さない方がいいんだよね?

 でも本音を言えと言っても全く言わない獅帥君の気持ちを、本人の同意なく聞くのって何か悪い事をしている気分になる。

 だからと言って、数分もしない内に夢に入る人を起こすのも忍びないし…ああどうしたら。



ーーーそんな私の葛藤は、



「ちゃんと、出来るから、居なくならないで…くれ」


 哀苦に満ちた言葉にアッサリと崩壊した。


「居なくならないよ」


 布団に隠れた片手を驚かれない様にそっと包む。


「大丈夫、起きるまで傍にいるから」

「…」

「おやすみなさい」