廊下でその姿が視界に入り、叫んだ。
「渚君!」
ピタリと止まる大きな背中。
駆け寄る私に振り向かない渚君はある話を、
「…ミサさんは、親父の妹で。親父はミサさんの事を大事にしとった。俺にとっては夏波みたいな存在」
ーーーミサさんについての話を始めた。
渚君は意味無く怒る人じゃない。
そして本気で怒る時はそこに夏波ちゃんがいる。
「俺の家もな、天條の家ぐらいめんどい家やねん」
「うん」
渚君は視線を横にずらして、窓を見た、
窓の外をと言うより、もっと遠くの先を見ているかの様なその眼差しは、寂寥と憂いを感じた。
「兄妹でいる言う事は海祇ではおっきな意味を持つ。互いを裏切れへん、互いの為にある。そう教えられて来た。今でも外部の人間と関わってもその考えは夏波も俺も変われへん」
言葉を切った渚君は、此方を向く。
凪いだ海の様に綺麗な瞳。
「誰と結婚しても、別の土地に住もうと別にええ。せやけど許されてへん事がある」
「許されていない事?」
首を傾げる私に、渚君はゆっくりと慎重に口を開く。
「ーーー海祇ではとある事が起きると、その時期に産まれた子を親元から引き離し、ある島で過酷な行を科す」
子供を親元から離すって…まるで天條家と一緒じゃあ…。
そう思ったが人の家の話を他人に伝えるのはいけないと思って口を噤む。
渚君は、
「そこでもし、」



