過つは彼の性、許すは我の心 弐



 妃帥との出会いは、島から出て初めて世間に触れるにしてはあまりにも衝撃的で以後の人との付き合いに多大な影響を与えた。

 声を掛けられれば不審気に相手を見て、接する時は一挙一動を観察する様にしていたら、人も寄り付かなくなった。


『渚、少しぐらい笑いなさい』

『…』

『分かったわ…』


 一族内や親が上に立つ会社の付き合いは支障を齎す程ではなかったが、お袋が頭を抱えているぐらいだから酷いものだったのだろう。

 黙っていると武闘派ヤクザみたいな迫力があるとお袋に苦言を呈されて、思わずそれは親父の方だろうと言い掛けたが、お袋の方が正しいのも分かっていたのでグッと堪えた。

 そう俺達兄妹は、世間…社会の縮図と言われるこの学園において明らかに浮いていたから、言い返す事が出来なかった。

 妹の夏波については、マフィアの女ボスでももっと笑うだろうってぐらい笑わないし、それで俺と居る時にだけ笑うもんだから、近親相関疑惑まで出た事もある。

 ほっとけよと心の底から思った。

 俺達兄妹が特殊な環境下で育てられたからこそ、お互いこそが唯一なのだ。

 きっと俺の知らない所で夏波に何かあれば、俺は正気でいられない。

 夏波もそうだろう。

 家族と言う枠組みがあっても夏波は特別だ。

 将来互いに、別の家族が出来てもそれは変わらない。