夏波ちゃんは立ち上がって「兄さんは?」と洋直ちゃんの質問には答えず私に聞いた。
「海祇さん!」
「あの渚君は怒っているって言うか…悲しそうって言うか…そのまま…」
「んー…そっか」
私の曖昧な答えに夏波ちゃんは分かってくれたらしい。
「綴ちゃんは兄さんの所に行って貰っていい?」
「え」
「お願い海祇さん!」
悲鳴の様な洋直ちゃんの声は拾わずに夏波ちゃんは「きっと屋上に向かっているんじゃないかな」と首を傾げた。
「行って、ね?」
夏波ちゃんの言葉には重みを感じない。
けれど、
「…分かった」
その目は態度以上に有無を言わせない切実さを伴っていて分かったと言わざる得なかった。
「…ありがとう」
笑った夏波ちゃんの顔は凪いだ海の様に穏やかでいつまでも見たいと思ってしまう程綺麗で…いやいや見惚れている場合じゃない。
「綴」
「獅帥君は此処に居て!」
一緒に行こうとする獅帥君にそう言って走り出す。
夏波ちゃんが外に出てから渚君と会わなかったって事は、結構此処から離れている気がする。普通の運動神経しかない私で渚君に追いつくんだろうか。
「お母さんは…!」
「…ミサさんは、」
背後で気になる発言が気になるが、構わずに生徒会室を出て行った。



