過つは彼の性、許すは我の心 弐



 洋直ちゃんと長い付き合いの火渡君も、渚君とそれなりの付き合いの私もただ傍観する事しか出来ず、次々と明るみに出る事実に驚くだけしか出来ない。

 
「え、」

「アンタの母親を連れてったのは俺の親父や」

「どうして」

「どうしてか…自分の親父は何にも教えてへんのやな」


 渚君はポイっと眼鏡を返して、大きな溜息を吐きながら座った。


「お父さんは何も」

「腰抜けめ…」


 心から軽蔑する様に渚君は洋直ちゃんのお父さんをそう評する。


「な!?お父さんの事を悪く言うのは、」

「自分の母親と俺の親父は兄妹やった。親父は家を離れる事はミサさんの為になれへんって親父は言うたのに、アンタの親父はミサさんもお腹の子ぉも幸せにしてみるって言い切った、言い切ってん!」


 バサンー!と渚君が怒りに任せて、書類の山を払い除ける。

 ふわふわと書類が周囲を舞った。

 渚君の剣幕に、怒っていた洋直ちゃんもギュッと身を縮こまらせた。

 火渡君が慌てて洋直ちゃんの前に出て庇い、見守っていた他の面々も警戒心を露わにする。

 確かに怒っている渚君は怖い。

 怖いけど、でも…。


「海祇が探しても見つかれへんかったって事は、この前におる奴の家に守られたって事やろう。って言う事は天條の業を知っとってもアンタの親父は守るって言うたって事や」


 辛そうに見えるのは何でなのだろうか。