過つは彼の性、許すは我の心 弐



 プリントや参考書類だらけの雑然とした長机に、妙に綺麗で可愛らしいノートがあるなって思った記憶があるんだけど…。


「あ、渚君。そこに」

「…ああ、コレか」


 丁度渚君の目の前の書類の山の下に、そのノートがある。

 渚君が山を崩さない様にノートを抜き取り、渚君は「ほら」と洋直ちゃんに差し出した。


「あ、ありがとうございます」


 そこで渚君の視線がノートの、名前の所でピタリと止まる。


「あの、海祇先輩?」

「きしやひろなお?」

「あ、洋直って書いてひろなって書くんです」

「洋直…」

「渚君?」


 渚君が訝し気に洋直ちゃんを見上げて、唐突に立ち上がった。

 
「やっ」

「オイテメエ!」

「渚君!?」

 
 唐突に立ち上がったと思ったらーーー洋直ちゃんの眼鏡を取り上げてしまった。


「渚君本当に何してんの!」

「返して下さい!それお母さんの形見!」

「形見…」


 渚君は呆然としながら1人の名前を口にした。


「アンタまさか、ミサさんの子やら言うんちゃうやろうな」


 ミサさん。

 その名前に大慌てだった洋直ちゃんが固まった。


「どうして…お母さんの事、もしかしてお母さんの事知っているんですか!?」


 その反応は渚君の言葉を肯定するもので、渚君はーーー…。


「お願いです!お母さん何処に行ったんですか!?小さい頃に知らない人に急に連れてかれてそれから、会えなく、」

「…そら、俺の親父や」