過つは彼の性、許すは我の心 弐



 結局気不味い雰囲気の中、私はお風呂に向かい、獅帥君はお祖父ちゃんと避けていた2人っきりの空間を楽しむ事になった。


「へ、先輩って聞いてたけど」


 お風呂から出た私は、蕎麦を食べる獅帥君の隣りで驚愕の事実を知った。


「違うよ。確かにOBではあったけど附属の大学には通っていたから…アレは他人への興味が無いからね。八重の話も適当に聞いていたんだろう」


 お祖父ちゃんがアレと言うのは匡獅さんの事で。

 でも実際匡獅さんと会った身としては、聞いている様で聞いていないって言うのは解釈一致って感じだ。


「あの学園は図書館があるから、図書館の使われていない部屋でよく八重と、章乃と3人で話したものだよ」

「そうなんだ…」

「…」


 獅帥君が蕎麦を啜る音をBGMに聞く、お祖父ちゃんの昔話はかなり面白かった。

…これは聞いてもいいかな?


「あのお祖父ちゃん」

「ん?」

「八重さんってどんな人だった?」


 ピタリと止まる獅帥君にごめんと思いながら、お祖父ちゃんに聞いた。


「そうだね…」


 お祖父ちゃんは思い出を辿る様に視線を虚空へと移す。

 そして、


「よく…月に例えられていたね」

「お月様?」

「そう」


 お祖父ちゃんはうんうんと頷く。


「物静かで、目立つ事を好まなかったからね。アレの隣に居る時は居心地悪そうにしていたよ」

「はは…」