結局気不味い雰囲気の中、私はお風呂に向かい、獅帥君はお祖父ちゃんと避けていた2人っきりの空間を楽しむ事になった。
「へ、先輩って聞いてたけど」
お風呂から出た私は、蕎麦を食べる獅帥君の隣りで驚愕の事実を知った。
「違うよ。確かにOBではあったけど附属の大学には通っていたから…アレは他人への興味が無いからね。八重の話も適当に聞いていたんだろう」
お祖父ちゃんがアレと言うのは匡獅さんの事で。
でも実際匡獅さんと会った身としては、聞いている様で聞いていないって言うのは解釈一致って感じだ。
「あの学園は図書館があるから、図書館の使われていない部屋でよく八重と、章乃と3人で話したものだよ」
「そうなんだ…」
「…」
獅帥君が蕎麦を啜る音をBGMに聞く、お祖父ちゃんの昔話はかなり面白かった。
…これは聞いてもいいかな?
「あのお祖父ちゃん」
「ん?」
「八重さんってどんな人だった?」
ピタリと止まる獅帥君にごめんと思いながら、お祖父ちゃんに聞いた。
「そうだね…」
お祖父ちゃんは思い出を辿る様に視線を虚空へと移す。
そして、
「よく…月に例えられていたね」
「お月様?」
「そう」
お祖父ちゃんはうんうんと頷く。
「物静かで、目立つ事を好まなかったからね。アレの隣に居る時は居心地悪そうにしていたよ」
「はは…」



