円嘉は自分の事を話したがらなかったから、それぐらいしか知らない。
聞くべきだったのかな。
もっと何かを知っていれば…。
「って、いつまでも鬱々としてるんだ自分」
良い加減にしろ馬鹿!と両頬を両手で挟む様に叩く。
その瞬間、ふわりと甘くて良い匂いに包まれた。
「綴」
耳元で囁かれた声にゾクゾクと身体が震える。
これは…。
「し、獅帥君」
「ん?」
獅帥君に背後から抱き締められたんだ。
首元にいつもの様に擦り付く獅帥君の濡れた髪が肌に付いて、ビクンとなった。
「綴赤い」
「あ、赤くもなるよ!」
お風呂上がりのイケメンに後ろから抱き締められれば赤くもなるわ!
キッと獅帥君を睨む為に首を動かしたら、鼻と鼻がくっ付きそうな距離に仰け反りそうになる。
「綴?」
「…っ」
電気をつけていない一室。
月明かりのみに照らされた獅帥君は、幻想的で神秘の存在に見えるが、湿った獅帥君の身体が男である事実をダイレクトに叩き付けて来て、脳が混乱する。
「何、で」
「うん?」
「抱き着く、の?」
言葉がちょこちょこと途切れるのは、息を出来るだけ吐き出さない様にしているからで。(臭いとか思われたら死ねる)
「今日の綴はずっと元気が無いから」
「だっ、たから、って、以外と、獅帥、君って甘えた?」
「そうかもな」



