過つは彼の性、許すは我の心 弐



「いい獅帥君。妃帥ちゃんが起きた時に、隈だらけの臭いお兄ちゃんと、お風呂に上がって睡眠もとった良い匂いのお兄ちゃん。2人いたらどっちを選ぶ?」


 私の阿呆そうな発言に、目を見開いただけで固まる獅帥君。

 一見空気読めよ馬鹿がと思われるかもしれないが、私は妃帥ちゃんが「え?お兄ちゃんずっと妃帥の傍にいてくれたの?嬉しい〜!」なんて言う子じゃないのを知っている。

 私の知っているのは「はあ…またお兄様ったら…」と呆れて、それを止めもしない周囲に舌打ちするのが妃帥ちゃんなのだ。


「私だって弟大好きだけど、流石に汗掻いてお風呂入らない弟いたらお風呂入れって思うよ」


 なら、多少阿呆臭くても獅帥君を休ませるのが絶対に良い。

 そんな私の思いが伝わったのか否か。


「…」
 

 沈黙を貫く獅帥君は、少しだけ柳眉が八の字にしている。

 これは本当に?マジ?俺臭い?と思い始めている…のか?

 よしダメ押しに。
 

「カズミさんはどう思う?」

「私ですか?」


 妃帥ちゃんをよく知るカズミさんも乗ってくれる事を期待して、話題を振ってみる。


「そうですね…」


 顎に手を当てながらカズミさんは考え込む。

 衆目を集めても顔色一つ変えないカズミさんは「以前妃帥お嬢様が言っていたんですけれど…」と切り出した。


「起きるまで傍に居てくれるのは有難いけれど…ちょっと、」


 ゴクリと獅帥君の喉仏が動くのを間近で見る。