怒りのまま言い連ねる私に、
「…」
答える言葉はない。
このっ…!と思ったが、
「…はあ」
待て落ち着け。
私の怒りは置いておこう。
今大事なのは…ーーー。
「知っている?獅帥君」
「…」
「倒れる前に妃帥ちゃんが言ったんだよ」
私の言葉に、妃帥ちゃんに似た瞳が私を見つめる。
「獅帥の傍に居て。1人にしないで。って言ったんだよ」
「っ…」
正気の無い瞳が初めて動揺に見開く。
「ねえ…何で身体が1番辛くて自分の身体の事を心配しないといけない人が、健康で自由に動き回れる人の事を心配しないといけないの?」
声にも涙が滲む様に震える。
「血の繋がった家族は誰にも会いに来ない。1番心配している兄はこんな場所で淫蕩に耽って妹から逃げる。これでどう良くなれって言うのよ!」
口の中がしょっぱい。
ああ涙が遂に溢れた。
鼻水まで出て来そうでズズッと啜る。
はあ…と溜息を吐いて、睨まない様に獅帥君を見る。
その目に怯えた子供の影を見た。
獅帥君…。
「…時には逃げてもいいよ。でも獅帥君今は逃げちゃ駄目。後悔する。断言するよ」
このまま本当に妃帥ちゃんに何かあったら…。
2人の間にとんでもない確執があって、会う事すら苦痛ならそれも仕方ないと思う。
でも2人の関係はそうじゃない。
世界にお互いしかいないなら尚の事。



