過つは彼の性、許すは我の心 弐



 怒りのまま言い連ねる私に、


「…」


 答える言葉はない。

 このっ…!と思ったが、


「…はあ」


 待て落ち着け。

 私の怒りは置いておこう。

 今大事なのは…ーーー。


「知っている?獅帥君」

「…」

「倒れる前に妃帥ちゃんが言ったんだよ」


 私の言葉に、妃帥ちゃんに似た瞳が私を見つめる。


「獅帥の傍に居て。1人にしないで。って言ったんだよ」

「っ…」


 正気の無い瞳が初めて動揺に見開く。


「ねえ…何で身体が1番辛くて自分の身体の事を心配しないといけない人が、健康で自由に動き回れる人の事を心配しないといけないの?」


 声にも涙が滲む様に震える。


「血の繋がった家族は誰にも会いに来ない。1番心配している兄はこんな場所で淫蕩に耽って妹から逃げる。これでどう良くなれって言うのよ!」


 口の中がしょっぱい。

 ああ涙が遂に溢れた。

 鼻水まで出て来そうでズズッと啜る。

 はあ…と溜息を吐いて、睨まない様に獅帥君を見る。

 その目に怯えた子供の影を見た。

 獅帥君…。


「…時には逃げてもいいよ。でも獅帥君今は逃げちゃ駄目。後悔する。断言するよ」


 このまま本当に妃帥ちゃんに何かあったら…。

 2人の間にとんでもない確執があって、会う事すら苦痛ならそれも仕方ないと思う。

 でも2人の関係はそうじゃない。

 世界にお互いしかいないなら尚の事。