俺は女と舌を絡めながら名残惜し気に唇を離し、ヨーロッパの後宮を彷彿とさせる部屋から退室した。
はだけていた服を適当に着直しながら、獅帥の姿を思い出す。
殺されたアドニスか。
口角が自然と持ち上がる。
……何故史上の美が堕ちていく様は、あんなに美しく感じるんだろうか。
選りすぐりの美しい女共が花に群がる虫の様に見える程、獅帥は美しい。
初めて獅帥を見た時の事を思い出す。
外見は勿論だったが、纏う空気が人間とは違う…例えるなら妖精とか精霊とかそう言う類のものだと思ってしまう程、獅帥は美しかった。
だから、人である事を知った時に俺は喜んだ。
人の身でありながら神話にしか存在しない美に触れられ、しかも支配出来るんじゃないかと思ったから。
幼い頃より、棚から牡丹餅を食い放題の人生で、食べても減らない牡丹餅を持て余していた俺には、格好の玩具だった。
こんな性格が悪いのは生まれた環境のせい?育て方のせい?
いいや、俺は生まれた時から何もかも恵まれていた。
ーーー俺の両親は中々子供が恵まれず、漸く出来た嫡子の俺を一族総出で甘やかした。
海外の上流階級と関われる最高の環境と教育を与えられ、生まれ持った容姿も手伝い、俺以上の存在なんていないんじゃないか、そんな風に思っていた時期もあった。



