俺が人の範疇で行き着く強さに至っているとしたら、コイツは何の域に達している?
「いいよ、応援呼んでも。言っちゃうと俺らただの足止めだしね」
「っ…」
男が大慌てで袖口に付けたインカムのマイク部分に「応答しろおい!」と何度も言っている。
「聞こえているのか!?おい!!」
「ちょっと貸して」
「あ」
惣倉は男のマスクを剥ぎ取り、インカムのイヤホン部分を男の耳から外して「音量大きくしてくんない?」と言う。
男は言われるがまま胸元にある音量をいじると、何処かにいる他のドッグランの仲間の声が聞こえる。
ただ聞こえる声が、
『たす、け!』
『うわあああ!』
『化け物が!!!!』
何処から聞こえているんだこれは。
地獄か?
「海祇先輩ノリノリだなあ」
同じモノを聞いているとは思えないのんびりとしている惣倉。
俺が可笑しいのか。
と言うかこれを海祇がやっているのか?
陽気に笑う男の姿を思い浮かべるが、想像がつかない。
このインカム越しの阿鼻叫喚の地獄を造り出している張本人とは思えなかった。
いやここはソドム。
腐敗と堕落の楽園だから可笑しくない…のか?
駄目だ頭が混乱する。
「さて、」
照明に光る銀のナイフが、男の頬に当てられる。
怯えてカタカタと震える男。
男は今だったら言いつけを破って塩の柱になる事を喜んで受け入れ、死を望むだろう。



