過つは彼の性、許すは我の心 弐



ーーー同時刻。

 カツ…カツ…と音が鳴る。

 人気の無い廊下に靴音だけが響く。

 客様エリアと関係者用の廊下は、黄金のポールに付けられた臙脂のロープで区切られているだけだが、関係者用の廊下は静かなもので、客用エリアの異様さが際立つ。

 アラビア風のエリアで起きた煙幕騒ぎは、犯人が捕まって収束した。

 今は警戒状態も解除され、散らばったセキュリティ達は元々決められたルートの巡回をするか、離れた位置で大暴れしているらしい他乱入者への応援に行くかになっているが…。


「…」


 目の前を歩く男の背を見つめる。

 俺の方が背もあり、単純に言えば負けない筈なのに。


「何ですか?」

「っいや…」


 見られているのに気付かれて大慌てで否定するが、気付かれた気まずさから「あっちに応援に行かなくって大丈夫か」と誤魔化す様に話した。


「多分大丈夫ですよ」

「多分って…」


 発砲音が聞こえた時は流石に驚いて応援の方に向かおうとしたが、その時もこいつは「任せましょう」と言うだけだった。


「海祇先輩、ああ見えてリスク管理しっかりしていますから、本当に危なくなったら上手い事やって逃げますよ」


 大きな着ぐるみを担ぐコーギーマスクを被ったーーー惣倉は俺の疑問にそう答えた。


「ねえー先輩」

「…」


 肩に担がれている着ぐるみに同意を求めているが、着ぐるみは沈黙を貫く。