諌める間もなく、鮮血が滴り、紫のベッドに染みていく。
「クソ…何すん、」
「どうする?俺、別に今追って来ている奴らも脅威に思ってないからさ、正直手間の問題なんだよ。お前に聞くのとアイツらに聞く違いだけだし。ただアンタの場合は命のタイムリミットがあるけど」
惣倉君はチラリと天幕の外を見る。
「おいアイツら何処行った!?」
「天幕の中も探せ!」
煙幕が少しずつ晴れてきて、宣言通りドッグラン達が遠くで天幕を捲り始めて、他の天幕内にいた男女の悲鳴が聞こえる。
顔を横一閃された男の顔がどんどん青ざめていく。
頭巾を被っているせいで横顔しか見えないが、視線からは冗談を言っている様には見えなかった。
さっきまでわーきゃー言っていた鉄将君ですら、黙って惣倉君の行いを見守っている。
「ほら」
「っえ、あ」
血に染まったナイフを男の頬に寄せて、ゆっくりと男の傷に這わせる。
何処か官能的に見えるその動きは、ナイフが男の首筋を辿り始めてから恐怖へと変わる。
ゴクリと飲んだ男の喉仏にナイフが少しだけ食い込む。血が流れた。
私がされている訳でもないのに、鳥肌が立つ。
「いない!」
「あっちも探せ!」
命の灯火を左右する声が迫って来ている。
どう考えても男の方が味方が多くて、こっちの方が不利なのに、男はガタガタと震えていた。



