過つは彼の性、許すは我の心 弐



 諌める間もなく、鮮血が滴り、紫のベッドに染みていく。


「クソ…何すん、」

「どうする?俺、別に今追って来ている奴らも脅威に思ってないからさ、正直手間の問題なんだよ。お前に聞くのとアイツらに聞く違いだけだし。ただアンタの場合は命のタイムリミットがあるけど」


 惣倉君はチラリと天幕の外を見る。


「おいアイツら何処行った!?」

「天幕の中も探せ!」


 煙幕が少しずつ晴れてきて、宣言通りドッグラン達が遠くで天幕を捲り始めて、他の天幕内にいた男女の悲鳴が聞こえる。

 顔を横一閃された男の顔がどんどん青ざめていく。

 頭巾を被っているせいで横顔しか見えないが、視線からは冗談を言っている様には見えなかった。

 さっきまでわーきゃー言っていた鉄将君ですら、黙って惣倉君の行いを見守っている。


「ほら」

「っえ、あ」


 血に染まったナイフを男の頬に寄せて、ゆっくりと男の傷に這わせる。

 何処か官能的に見えるその動きは、ナイフが男の首筋を辿り始めてから恐怖へと変わる。

 ゴクリと飲んだ男の喉仏にナイフが少しだけ食い込む。血が流れた。

 私がされている訳でもないのに、鳥肌が立つ。

 
「いない!」

「あっちも探せ!」


 命の灯火を左右する声が迫って来ている。

 どう考えても男の方が味方が多くて、こっちの方が不利なのに、男はガタガタと震えていた。