過つは彼の性、許すは我の心 弐



 彼女の力強い背中を見送って、一息を吐く。

 こう言う時の彼女は誰よりも強い。

 普段は平凡に埋没する様に溶け込んでいる彼女は、時々驚く程眩しくもなりーーー…時々酷く安らぐ事もある。

 小さな頃から他人に、特に女。


『凌久は分かってくれるわね?』


 震える声が耳朶に響く。

 目を瞑ると嫌でも思い出す。

 女に媚びを売る様な生き方をしていた自分には、女と言う生き物は何よりも丁重に扱い、そして機嫌を損ねてはいけない生物だった。

 その上、その女達を支配する者。


『凌久。お前は唐堂綴と知り合いらしいな』


 深々と重みのある言葉の羅列。

 話しているだけでも身体からどっと疲れていく感覚が身体を支配するが、この男に対して隙を、怯えている姿を見せてはいけない。

 幼い時から自分の運命は、四葉の運命は、コイツに握られているのだ。

 獅帥の居場所が分かったのだって、あの男からの情報によるもの。


『誰よりも傍に居て信用を勝ち取れ。何お前ならいつも通りやれる。時が来たらーーー分かっているな?』


 彼女が笑う姿が脳裏に過ぎる。

 
『ありがとう凌久君』


 彼女の心から笑った姿は、自分の傷口をゆっくり覆い、癒してくれる。

 こんなに穏やかな気持ちになれたのはいつの頃か。


『ごめんね凌久ごめんね…!』