「ん…んン…んっ⁉︎ん…‼︎」
口に当たる柔らかい物体。
その正体は、クラスメイトの唇でした。
「ちょっ…、何してんの⁉︎」
朝比奈芽衣、16歳。
出身は田舎だが、上京して東京にやってきた。
目の前にいるのは、クラスメイトのハルヒ。
「な…んで、ハルヒがっ…。」
驚きのあまり口ごもると、ハルヒがニヤリと微笑んだ。
「何でだろーね?」
そう言って笑うハルヒに、私はすこし苛立った。
「ちゃんと教えてよ。勝手に人の唇に…き、キスしておいて!」
私が声を張り上げると、ハルヒがこちらを振り向いた。
その顔はだれが見ても美少年と言うだろう。
私もそう思う。
だからといって、別に好きとかそういうわけじゃない。
彼は高嶺の華で、観賞用なのだから。
「どっちから襲ったと思う?」
ハルヒはまだ笑みを浮かべながら聞いてきた。
「は、はぁ?ハルヒくんでしょう?」
そう言った途端、冷や汗が出た。
もしや、私が襲った…⁉︎
だとしたらヤバイし最悪だ。
高嶺の華にそんなことをしてしまったなんて…‼︎
1人で焦っていると、ハルヒのクスクス笑う声が聞こえた。
「ほんっとーにごめんなさい‼︎これで許してください‼︎」
私は床に膝まづきながら謝った。
「あー、おっかし。」
…は?
キョトンとする私を、ハルヒが見下す。
「君って面白いね。まぁ、君が襲ったっていうのは本当だけど。」
ハルヒの言葉に、サーッと血の気が引いていく。
やっぱり襲っちゃったんだ…!
「まぁいいよ。顔を上げて。」
ハルヒの言うとおり顔を上げた。
「よしよし、いーこだねえ。」
甘い声で言いながら、ハルヒは私の頭を撫でた。
「ちょ…、バカにしてんの?私、もう20歳ですけど…。」
カッとなってハルヒの手を退けると、そのままハルヒはひっくり返ってしまった。
「は、ハルヒくん…?だ、大丈夫?」
慌ててハルヒの元へ駆けつけると、ハルヒがううーんと唸った。
「ごめん…!」
今度はケガをさせてしまった。どんどん血の気が引いていく。
何てことしてるんだ、私は。明日から大学来れない…!と思っていると、ハルヒが言葉を発した。
「あれ、君だれ…?」
うそ――――っ‼︎
えっ?記憶喪失ってやつ?え??
パニックっていると、ドアがガラッと開いた。
「ちょっと、ハルヒくんが…」
そこまで言いきった女の子の形相が、みるみる変わっていく。
「アンタ、ハルヒくんに何を…?」
「ひい。いや、ただたまたま…っ。」
言い訳がましく言ったけど、もちろん信じてもらえるはずなくて。
女の子に頬を叩かれていた。
頬がジンジンと痛む。
「痛…」
痛いけど、自業自得だ。
「ハルヒくぅーん!大丈夫ぅ⁉︎」
女の子は私のことなど気にもせず、ハルヒの方へ駆けつけていた。
「えっと…だれですか?」
そうだった、記憶失くしてたんだった。
恐る恐る女の子の方を見ると、石のように固まっていた。
そりゃそうだよね、あの子ハルヒと仲よかったし…。
と思っていると、また女の子が鬼のような形相でこちらを見ていた。
ビクッと肩が上がる。
「アンタ…何したのよお‼︎」
「何もしてないって!」
嘘だけど、時にはついた方がいい時もある!
お母さんがよく言っている文句を思って、何とか気持ちを保った。
「本当?でも2人きりでいたんでしょう?」
女の子がズカズカと近寄ってくる。
うっ…。
それは正論です…。
何も言い返せないでいると、タイミング悪くチャイムが鳴った。
女の子はチッと舌打ちすると、ハルヒを抱えた。
「ちょっと待って、どこへ行く気?」
思わずそう叫ぶと、女の子がギロリとこちらを睨んだ。
「どこって保健室だけど、何か?」
ううっ…。
また何も言えずにいると、再びチャイムが鳴った。
ハッ、私も行かなきゃ!
――
空き教室を出て、教室に戻ると、ハルヒと女の子がいなかった。
ハルヒのファンであろう女の子たちは、ハルヒがいないからなのか不服そうだった。
言えない、私のせいだなんて…!
ちょっとすると先生が来て、2限目の授業が始まった。
さっきのことで授業に集中できなかった。
ハルヒ、大丈夫だろうか?
(ハルヒと女の子)絶対怒ってるよ…!
そもそも、何であんなところに?
「――芽衣さん、聞いてるの?」
先生の声で、ハッと我に返った。
「え、えっと…。」
やばい、聞いてなかったから分かんない。
焦っていると、となりから声がした。
「問3、答えは20だよ。」
「あ、ありがとう…!
えっと、20です。」
「はい、正解。」
答えを教えてくれたのは、凛花という子だった。
クラスの中でも目立つ子で、いわゆる1軍女子というやつだった。にも関わらず、だれにでも優しい、いわゆる天使みたいな子だった。
やっぱり優しいし可愛いな、と思った。
女子からの痛い視線も感じたが。
――
「ハルヒくん、どーしたんだろうねえ。」
休み時間。
まだハルヒと女の子は戻ってきていない。
そろそろ心配になってきた。迎えに行こうか?でも怒られそうで怖い。
そう思ってうじうじしていると、「芽衣ちゃーん」と声がした。
仁科綾だった。
「あ、綾。」
綾は私の数少ない友だちだ。ストレートに揃った黒髪をおかっぱにしており、私と同じ3軍女子だ。
「このあと暇?」
「ううん、どうしたの?」
「いや、一緒にミシンやりたいなーって。」
綾の家は服屋さんで、綾自身もミシンが得意だ。そのため、サークルも家庭科部に入っている。将来は服屋さんを継ぐそうだ。私とちがってすごいなーと思う。私の家は普通だし、不器用でミシンは苦手。だけど綾からの誘いがあれば、仕方なく一緒にやっている。
綾と家庭科室に向かっていると、遠くの方にハルヒらしき人が見えた。
ドキッとしたが、すぐに角を曲ったので、ほっとした。
家庭科室に着くと、だれもいなく、シーンとしていた。
「じゃあこのミシン使おっか。」
静まり返っている部屋に、綾の声だけが響く。
返事の代わりに頷くと、綾はミシンの準備をはじめた。
準備が整うと、綾が言った。
「今日作るのはね、エプロン!」
「エプロン?」
「うん。もうすぐお母さんの誕生日なんだけど、プレゼントしようと思うの。」
「へえ。」
すごいな、と思う。
いつも母の誕生日には買ったものをあげてしまう。けど、本当は手作りの方がいいんだろうか?でも、私が作ったものはきっとボロボロだし、買ったほうがいいよね。
そんなことを思っていると、綾が「できた!」と言った。
「え、早!さすが綾!」
まだ10分も経っていない気がするけど。
エプロンの出来は相変わらずで、完璧だった。
「きっとお母さん喜ぶよ。」
「え、そうかなあ。」
そう言って綾は照れた。可愛いな、と率直に思う。
「じゃ、芽衣もやってみてよ。」
「うん。」
布をセットすると、台に足を置き、縫いはじめた。
前に、綾にどうしてミシンが好きなのと聞いたことがあった。
すると綾は「集中できるから」と答えた。
私には分からなかった。
今だってハルヒのことを考えているし…。
「ちょっと芽衣ちゃん!すごい斜めってるよ!」
綾の声に、ハッと我に返る。
たしかに、縫い目が斜めっていた。
「考えごとでもしてた?」
ギクッ。
何で綾って勘がいいのだろう。
すぐに見透かれてしまう。
その時、チャイムが鳴った。
「あー、もうか。ほんと大学って休み時間短いよね。
…でさ、ミシンは考えごとしてたら上手くいかないよ。」
綾の言葉に頷いてから、私はミシンを片付けた。
――
教室に戻ると、もうハルヒが戻ってきていた。
ヒヤヒヤと眺めていると、ハルヒがこちらを見た。
思わずドキッとすると、ハルヒがにっこりと笑った。
…え?
あれ、怒ってない?
ふっと肩の力が抜けた。
女の子もいるのかと辺りを見渡すと、遠くの方に見えた。
口に当たる柔らかい物体。
その正体は、クラスメイトの唇でした。
「ちょっ…、何してんの⁉︎」
朝比奈芽衣、16歳。
出身は田舎だが、上京して東京にやってきた。
目の前にいるのは、クラスメイトのハルヒ。
「な…んで、ハルヒがっ…。」
驚きのあまり口ごもると、ハルヒがニヤリと微笑んだ。
「何でだろーね?」
そう言って笑うハルヒに、私はすこし苛立った。
「ちゃんと教えてよ。勝手に人の唇に…き、キスしておいて!」
私が声を張り上げると、ハルヒがこちらを振り向いた。
その顔はだれが見ても美少年と言うだろう。
私もそう思う。
だからといって、別に好きとかそういうわけじゃない。
彼は高嶺の華で、観賞用なのだから。
「どっちから襲ったと思う?」
ハルヒはまだ笑みを浮かべながら聞いてきた。
「は、はぁ?ハルヒくんでしょう?」
そう言った途端、冷や汗が出た。
もしや、私が襲った…⁉︎
だとしたらヤバイし最悪だ。
高嶺の華にそんなことをしてしまったなんて…‼︎
1人で焦っていると、ハルヒのクスクス笑う声が聞こえた。
「ほんっとーにごめんなさい‼︎これで許してください‼︎」
私は床に膝まづきながら謝った。
「あー、おっかし。」
…は?
キョトンとする私を、ハルヒが見下す。
「君って面白いね。まぁ、君が襲ったっていうのは本当だけど。」
ハルヒの言葉に、サーッと血の気が引いていく。
やっぱり襲っちゃったんだ…!
「まぁいいよ。顔を上げて。」
ハルヒの言うとおり顔を上げた。
「よしよし、いーこだねえ。」
甘い声で言いながら、ハルヒは私の頭を撫でた。
「ちょ…、バカにしてんの?私、もう20歳ですけど…。」
カッとなってハルヒの手を退けると、そのままハルヒはひっくり返ってしまった。
「は、ハルヒくん…?だ、大丈夫?」
慌ててハルヒの元へ駆けつけると、ハルヒがううーんと唸った。
「ごめん…!」
今度はケガをさせてしまった。どんどん血の気が引いていく。
何てことしてるんだ、私は。明日から大学来れない…!と思っていると、ハルヒが言葉を発した。
「あれ、君だれ…?」
うそ――――っ‼︎
えっ?記憶喪失ってやつ?え??
パニックっていると、ドアがガラッと開いた。
「ちょっと、ハルヒくんが…」
そこまで言いきった女の子の形相が、みるみる変わっていく。
「アンタ、ハルヒくんに何を…?」
「ひい。いや、ただたまたま…っ。」
言い訳がましく言ったけど、もちろん信じてもらえるはずなくて。
女の子に頬を叩かれていた。
頬がジンジンと痛む。
「痛…」
痛いけど、自業自得だ。
「ハルヒくぅーん!大丈夫ぅ⁉︎」
女の子は私のことなど気にもせず、ハルヒの方へ駆けつけていた。
「えっと…だれですか?」
そうだった、記憶失くしてたんだった。
恐る恐る女の子の方を見ると、石のように固まっていた。
そりゃそうだよね、あの子ハルヒと仲よかったし…。
と思っていると、また女の子が鬼のような形相でこちらを見ていた。
ビクッと肩が上がる。
「アンタ…何したのよお‼︎」
「何もしてないって!」
嘘だけど、時にはついた方がいい時もある!
お母さんがよく言っている文句を思って、何とか気持ちを保った。
「本当?でも2人きりでいたんでしょう?」
女の子がズカズカと近寄ってくる。
うっ…。
それは正論です…。
何も言い返せないでいると、タイミング悪くチャイムが鳴った。
女の子はチッと舌打ちすると、ハルヒを抱えた。
「ちょっと待って、どこへ行く気?」
思わずそう叫ぶと、女の子がギロリとこちらを睨んだ。
「どこって保健室だけど、何か?」
ううっ…。
また何も言えずにいると、再びチャイムが鳴った。
ハッ、私も行かなきゃ!
――
空き教室を出て、教室に戻ると、ハルヒと女の子がいなかった。
ハルヒのファンであろう女の子たちは、ハルヒがいないからなのか不服そうだった。
言えない、私のせいだなんて…!
ちょっとすると先生が来て、2限目の授業が始まった。
さっきのことで授業に集中できなかった。
ハルヒ、大丈夫だろうか?
(ハルヒと女の子)絶対怒ってるよ…!
そもそも、何であんなところに?
「――芽衣さん、聞いてるの?」
先生の声で、ハッと我に返った。
「え、えっと…。」
やばい、聞いてなかったから分かんない。
焦っていると、となりから声がした。
「問3、答えは20だよ。」
「あ、ありがとう…!
えっと、20です。」
「はい、正解。」
答えを教えてくれたのは、凛花という子だった。
クラスの中でも目立つ子で、いわゆる1軍女子というやつだった。にも関わらず、だれにでも優しい、いわゆる天使みたいな子だった。
やっぱり優しいし可愛いな、と思った。
女子からの痛い視線も感じたが。
――
「ハルヒくん、どーしたんだろうねえ。」
休み時間。
まだハルヒと女の子は戻ってきていない。
そろそろ心配になってきた。迎えに行こうか?でも怒られそうで怖い。
そう思ってうじうじしていると、「芽衣ちゃーん」と声がした。
仁科綾だった。
「あ、綾。」
綾は私の数少ない友だちだ。ストレートに揃った黒髪をおかっぱにしており、私と同じ3軍女子だ。
「このあと暇?」
「ううん、どうしたの?」
「いや、一緒にミシンやりたいなーって。」
綾の家は服屋さんで、綾自身もミシンが得意だ。そのため、サークルも家庭科部に入っている。将来は服屋さんを継ぐそうだ。私とちがってすごいなーと思う。私の家は普通だし、不器用でミシンは苦手。だけど綾からの誘いがあれば、仕方なく一緒にやっている。
綾と家庭科室に向かっていると、遠くの方にハルヒらしき人が見えた。
ドキッとしたが、すぐに角を曲ったので、ほっとした。
家庭科室に着くと、だれもいなく、シーンとしていた。
「じゃあこのミシン使おっか。」
静まり返っている部屋に、綾の声だけが響く。
返事の代わりに頷くと、綾はミシンの準備をはじめた。
準備が整うと、綾が言った。
「今日作るのはね、エプロン!」
「エプロン?」
「うん。もうすぐお母さんの誕生日なんだけど、プレゼントしようと思うの。」
「へえ。」
すごいな、と思う。
いつも母の誕生日には買ったものをあげてしまう。けど、本当は手作りの方がいいんだろうか?でも、私が作ったものはきっとボロボロだし、買ったほうがいいよね。
そんなことを思っていると、綾が「できた!」と言った。
「え、早!さすが綾!」
まだ10分も経っていない気がするけど。
エプロンの出来は相変わらずで、完璧だった。
「きっとお母さん喜ぶよ。」
「え、そうかなあ。」
そう言って綾は照れた。可愛いな、と率直に思う。
「じゃ、芽衣もやってみてよ。」
「うん。」
布をセットすると、台に足を置き、縫いはじめた。
前に、綾にどうしてミシンが好きなのと聞いたことがあった。
すると綾は「集中できるから」と答えた。
私には分からなかった。
今だってハルヒのことを考えているし…。
「ちょっと芽衣ちゃん!すごい斜めってるよ!」
綾の声に、ハッと我に返る。
たしかに、縫い目が斜めっていた。
「考えごとでもしてた?」
ギクッ。
何で綾って勘がいいのだろう。
すぐに見透かれてしまう。
その時、チャイムが鳴った。
「あー、もうか。ほんと大学って休み時間短いよね。
…でさ、ミシンは考えごとしてたら上手くいかないよ。」
綾の言葉に頷いてから、私はミシンを片付けた。
――
教室に戻ると、もうハルヒが戻ってきていた。
ヒヤヒヤと眺めていると、ハルヒがこちらを見た。
思わずドキッとすると、ハルヒがにっこりと笑った。
…え?
あれ、怒ってない?
ふっと肩の力が抜けた。
女の子もいるのかと辺りを見渡すと、遠くの方に見えた。



