牙狼との小競り合いから数日。
あの夜以来、駿真はどこか落ち着かない様子だった。

「最近、あいつら動きが変わってきてる」
「牙狼のこと?」
「ああ。……何か企んでる」

駿真がそんなふうに真剣な顔するの、初めて見たかもしれない。

「でも、あたしを狙ってる理由って何なの?」

聞いた瞬間、駿真の表情が一瞬止まる。

「……お前が“俺のそばにいる”から、だよ」
「は?」
「夜影の姫になりかけてる。牙狼にとっちゃ面白くないだろ」

その言葉に、胸の奥がざわついた。
私の意思じゃないとこで、何かが動きはじめてる気がして。



その日の夜、私はひとりで海の近くを歩いていた。
いつもの風に当たりたくなって、つい……油断だった。

「……夜影の姫ってのは、ひとりで出歩くもんなんだな?」

その声に振り返ると、見知らぬ男たちが数人。
バイク、服装、目つき――牙狼のメンバーだ。

(まずい……)

走り出そうとした瞬間、腕を掴まれて引き戻された。

「放せって――!」
「へぇ、噂通り気が強い」

そのときだった。

「……悠菜に手出すとか……てめぇら、正気か?」

低く、鋭く。
風もバイク音もないのに、空気が変わる。

いつの間にか、駿真がそこにいた。

その目は怒りを通り越して、静かに燃えていた。



駿真の怒りは、牙狼のメンバーを圧倒した。
たった数分で、空気ごとねじ伏せた彼の背中を、私はずっと見ていた。

「……バカ。勝手に動くなよ」
「……ごめん。でも、来てくれてありがとう」

その夜、私はもう自分が“ただの居候”じゃないことを知った。