四人ともミス・ウィッチの姿になり、なんともカラフルな絵になりました。
でも、前回は砂嵐が吹き荒れていたから、上空でバトってた私とマリエのことは、地上からは見えなかったと思うけど、今回は空は赤いだけで澄んでいる。しかもみんな、この怪しげな空を見上げてるし、確実に私たちのこと、見えちゃうよね……。
そんなことを、うすぼんやりと考えていたら、
「セイラン、久々に頼むよ」
キアさんが短く言った。
「……うん」
答えたセイランさんの右手には、既に杖が握られている。顔の大きさくらいある、氷の結晶のようなオブジェが先についた杖。
セイランさんが、静かにその手を高く上げる。
一瞬で、ホント一瞬で、辺り一面に曇り空が広がった!
「え? あれ? 雲?」
「さっきまで確かに赤かったはず……」
「見間違い……だったのかな?」
学園のみんなの、戸惑いの声がきこえてくる。
「な、何ですかこれ……」
思わずつぶやくとキアさんが、
「セイランの魔法。目隠し用の雲。
実際の雲よりは低空で、白が強いけど、さっきまでよりは目と心臓に優しいんじゃない?」
へえー……。
こんなすごい魔法が、息をするように繰り出されたから、かなりびっくりした。
「あたしたちは、雲を抜けて上空に行くからな。一瞬魔法で姿を消す。
上についてからもそうできれば早いんだけど、トウヤが隠す気ないからな……」
「わかりました!」
ケープマントをなびかせて上昇するキアさんとセイランさんに、おいていかれないようについていく。
雲の層はそれほど厚くなくて、抜けた先にはやっぱり赤い空が広がっている。早くトウヤを見つけて、止めないと……。
「来たな、ミス・ウィッチ!」
探すまでもなく、空中で仁王立ち(立ってるっていうか、浮いてる?)しているトウヤを見つけた。
「空を赤くすれば、異変に気づいたミス・ウィッチがのこのこと現れる! 作戦成功、さすがオイラ!」
「そうかそうか良かったな」
棒読みしたキアさんが、杖をまっすぐトウヤに向ける。緑っぽい透き通った球体のオブジェの中で、何かがはじける。
「満足したならとっとと帰れ。そして、二度と来るな」
「ミスマジック・エレカトレナ」
バチッッッ! と音がすると同時に、黄色い稲妻が、杖の先からトウヤに向かって走る!
「わっ、ちょっ!?」
体をぐねんと曲げるようにして、すんでのところで避けるトウヤ。
「ふいうちなんて卑怯だぞ!」
「どの口が」
言う、まで言わずにキアさんは、電撃を乱発! 逃げ回るトウヤを狙う。
あまりの迫力に身の危険を感じて、私とマリエはそっと一歩後ろに下がった。
……あれ、セイランさんは?
って、あ! いつの間にトウヤの背後にいる! しかも、大きな氷の盾を持って! いつ作ったのかしら。
キアさんにしか注意を払えていないトウヤ。氷の盾に跳ね返った稲妻が、見事に直撃した。
「あばばばばばばばばばば」
わー、痛そー……。
セイランさんの杖から発せられた巨大な氷のリングが、トウヤをすかさず捕らえる。これでトウヤは、電撃から解放されても、身動きが取れなくなった。
……なんか、すごいもの見ちゃった。
キアさんとセイランさんは、トウヤの目の前に移動する。私たちも、そそそっと後に続いた。
「……って、オイラは、お前らというよりは、そっちのピンクと緑のやつをやっつけようと……」
「そうだな。お前程度じゃ、あたしたちには到底かなわないからな」
「なんだと!? きょ、今日のオイラはこんなもんじゃないんだぞ! ママにもらった最後のチャンスだから、入念な準備を――」
「どうでも良い」
キアさんの目が、さらに鋭くなる。
「お前みたいな雑魚だろうと、こんな身勝手な行動をするやつを、あたしたちは許さない。次に会ったときは、容赦しないからな。
お前のママがやっていることは、決してお前がお遊びで手を出していいことじゃない。よく覚えておけ」
……こ、怖。側から見てても怖いです。
ほら見てよ、トウヤの顔。かなーりひきつってる。
「……つか、遊びじゃなくても許されるわけねーだろこんなの。自分で考えろ」
キアさんは、トウヤの眼前に杖の先を持っていった。バチっと電気が走る。
「……帰れ。でないと、今ここで容赦しない」
低い声で言われたトウヤは、なんとか動く背中のロケットで、氷のリングを体につけたまま、慌てて飛び去って行った。
そして、空は元の青さを取り戻した。
やることが、なかった。
「これで多分、大丈夫。ていうか、そろそろ向こうからストップがかかるでしょ」
キアさんが、のびをしながら言った。
「……向こう、とは、彼が言っていた“ママ”のことですか?」
マリエが尋ねる。
「ああ。あいつ、あれで一応、敵のトップの息子だから」
「マジですか!?」
敵のトップって確か、スピカさんからもらった冊子にちらっと書いてあったような、確か名前は……。
「マヤカ。
世界征服を目指してミス・ウィッチの敵を束ねていることがわかっていて、それ以外のことはほとんどわからない謎の人物」
言ったのはセイランさん。
めっちゃ喋った! と思ったらまた黙ってしまう。代わりにキアさんが続けた。
「息子であるあいつには、はなから期待してないっぽいけど、娘をはじめとした配下のやつらに、あたしたちミス・ウィッチの殲滅を命じてる」
「それは、なんでなんですかね?」
「知らない。強力な魔力を持つミス・ウィッチの存在が邪魔なんじゃない?」
キアさんは、興味なさそうに言った。
「あいつはもう来ないと思うけど、ミス・ウィッチである以上、これからも何らかのトラブルに巻き込まれることは確実。
くれぐれも身の回りには気をつけなよ」
「ハイ」
「了解しました」
……でも、すごいんだな、キアさんとセイランさん。
あっというまにトウヤを追い払っちゃったし、なによりミスマジックの威力がすごくて圧倒された。そして、それをしっかり使いこなしている感じ。
短くまとめると、マジでかっこよかった!
私も、あんな風に魔法を使いこなして、かっこよく戦ってみ
……っ?
正直、何が起きたのかわからなかったんだけど、キアさんにすごい勢いで手を引っ張られた。
私たちがいた場所が、一直線に吹雪いた。
吹雪いたとしか言いようがない。しかも、風が信じられないくらい速い。
……ひッ! 寒いッ! 凍える!
今、五月なんですが!?
ダメだ、こんなバカなこと考えている場合じゃない。だって、キアさんと、マリエの手を引っ張ったセイランさんの顔が
真剣だ――。

