「小鈴」






「ん?なに、響」






放課後の坂道。校舎の裏を抜けた先にある、ふたりだけの秘密の場所。



夕焼けに染まった道を、ふたりで歩く。
カラスが鳴き始める時間、蝉の声はもう止んでいた。



「今日も、部活さぼったんやろ?」



「うん!だって、響がいそうな気がしたから!」



「小鈴ほんまにアホやな……」




そう言いながらも、響はふっと笑った。ほんの少しだけ口元が緩んだ。



「だって、響といるほうが楽しいもん」


「……そうかいな」

響はポケットに手を突っ込んで、小鈴の顔を見ない。
でも、小鈴は構わず笑ってる。響のそんなところも好きだった。


「ねえ響、今日はね、テストの点数すごく良かったんだよ!」


「ほー…ええやん」


「でしょっ?褒めてー!」


「……頑張ったな」


「えへへ、ありがと〜」



言ったらちゃんと褒めてくれるところ

けっこう好きだなあ、



「なあ、小鈴」



「なに?」



「……おまえ、なんで俺みたいなんと、ずっと一緒におるん?」



「んー?だって、響は響でしょ?」



「意味わからん…」



「わかんなくていいの。私が響といたいって思う、それだけ」







なーんて、ほんとは好きだからだけど!




「……アホやな、ほんま」


「うん、よく言われる〜」


響は顔をそらしながら、ポツリとつぶやいた。



「俺、おまえのこと……」




その続きを、わたしは待ってた。


期待しまくってた。


けど、響はそれ以上言ってくれなかった。



「……」



「……すまん、なんでもないわ」



「そっか。でもね、私……響のこと、大好き」



ふたりの間に流れた、少しの沈黙。
夕焼けの匂い。遠くで犬が吠える声。






「……せやから、アホやっちゅうねん」






そう言いながらも、響の耳は真っ赤だった。






わたし、ほんとに好きなんだな。響のこと。