新居・洗面所(中学2年、夏休み明け)

朝早く、薄暗い洗面所。ひなた、転校初日の緊張で早く目覚め、鏡の前で髪を整える。
ドアが開き、たすくが入ってくる。

ひなた 驚いてビクっとする。

たすく サッカー部の朝練用のスポーツバッグを肩にかけ、制服姿。

ひなた
蚊の鳴くような声でこっけいなほど頭を大げさに下げる
「お、おはようございます」
ひなた、驚いて手を滑らせ、持っていた整髪料の瓶をたすくの足に落とす。ガシャンという音。

ひなた
(慌てて取ろうとして転んで、たすくの胸に飛び込む形になる)
真っ赤になって
「ご、ごめんなさい!」

たすく 無表情のままひなたを抱き起こす
ひなたのあごをつかみ、じっと顔を覗き込む。
キラキラアップ顔

ひなた「え!?」
ひなた狼狽してさらに真っ赤に。

たすく 
クールなまま
冷たく呟く
「……ひなたっていうより、日陰って感じだな」

ひなた、ショックで呆然と青ざめる。

たすく、瓶を拾ってひなたの頭にコツンと当ててから洗面所を出る。

ひなた
独白、俯きながら落ち込んだ顔
「ひ、日陰……納得しちゃう自分が悲しい」

ひなた、気落ちしたまま、トボトボと学校へ向かう。

場面転換
学校・教室
私立中高一貫校の教室。ひなた、前の公立学校の地味なブレザーで浮き、緊張で縮こまる。クラスメイトはかわいい制服。クラスは転校生の登場でざわつく。

ひなた
(黒板前、小さな声)
「天海日向です」

ひなた、冷や汗。前髪で目を隠し、視線を避ける。クラスメイト、好奇心と警戒の目でひなたを見定める。
女子たちがヒソヒソ話す。

女子A
ひそひそと
「天海? 高等部のたすく様と同じ苗字!?」

女子B
笑いながら
「まさか。関係ないでしょ。暗そうだし」

ひなた、席につく。隣の女子、ナナが話しかける。

ナナ
明るい 好奇心いっぱいの顔
「天海って珍しいけど、高等部のたすく様と親戚?」

ひなた 首を振る
(たすく君の恥になる。黙っとこ…)
「し、親戚じゃないよ」

ナナ
(目を輝かせ)
「たすく様っていう超イケメン王子様がいるの! ツンツンして女子には冷たいんだけどそこがまたたまらないっていうか」
ひなた
(気まずい顔)
「そ、そうなんだ」

ナナ
「見て! あそこにいるから」
窓の外を見る。校庭でたすくがバスケをする姿。色素の薄い髪が陽に当たり金色に輝く。

ナナ
うっとり顔
「見て! アイドルよりカッコいいでしょ? 文武両道のサッカー部のエース」

女子たちが窓辺に集まり、シュートを決めたたすくに悲鳴を上げる。

ひなた
たすくと一瞬目があった気がして目を伏せる
(日陰の私には王子様なんて関係ないな)


(たすく視点)
校庭、休み時間のバスケ。たすく、シュートを決め、女子の歓声が響く。クラスメイトが話しかける。

クラスメイト
ニヤニヤ
「なにイライラしてんだよ。いつも本気出さないくせに」

たすく
ムッとして
「してねーよ」

たすく 窓辺にひなたを見つけて、苦い顔をする
(親父、騙されてる。あんな女に引っかかるなんて…)

たすく
(あいつも悲惨な人生だよな。母親が離婚再婚繰り返して)
たすく、鋭い目でシュートを決め、歓声が再び響く。