大学の居酒屋・新歓の夜
店内の喧騒、カラフルなグラス、わいわいと盛り上がるサークルの新入生歓迎会。
ひなた、奥の座敷の隅に座っている。
コーラのグラスを手に、笑顔を浮かべながらも、明らかに会話の輪に入りきれていない。
ひなた
(勧誘されてつい来ちゃったけど、場違いだな)
周囲の笑い声。陽キャの集まり
学生モブ
「んじゃ新入生から自己紹介しよっか。そこのボブの子から」
ひなた 緊張して
「K県から来ました。春日ひなたです」
先輩女子A(明るく)
「家では何してるの?」
ひなた(戸惑いながら)
「えっと……得意ではないんですけど、プログラミングが好きで、自作のロボット作ったり」
女子A 引き気味
「へ、へぇ。すごいね」
微妙な空気。笑う人も、引く人もいる。
男子学生モブ ちょっと馬鹿にしか感じで
「俺らみたい学生とはレベルが違うねー」
ひなた 下を向く
(やらかしたかな。読書とか言えばよかったんだ)
小さくため息をつく。
会話の輪から少し離れ、そっと席を立って手洗いに。
居酒屋・店内(別の座敷)
手洗いから戻ると
隣の座敷では、別のサークルが新入生歓迎会で盛り上がっている。ひなた、ふとそちらに目をやる。
モブの声
「たすくー、もう帰るのかよ!」
たすく
(だるそうに)
「あー」
ひなた
(たすく? それに今の声)
女性の声
(明るく)
「待って、たすくが帰るなら私も帰る」
ひなた、驚いた顔。
(た、たすくってまさか)
金髪に近い明るい髪。細身のシルエット、長い手足、小さな頭。たすくの後ろ姿が視界に入る。
ひなた 驚いた顔
(思わず呟く)
「たすく君…?」
たすく、振り返る。真顔に。
日本人離れした王子様みたいなルックスだが一見冷たそうな無表情な顔。ひなたを見て、一瞬動きが止まる。
たすく じっとひなたを見つめる アップ
ひなた(驚きを隠そうと平静を装う)
「ヒナ、東京来たのか。まさかI大?」
ひなた
(え、もしかして同じ大学だったの?)
「は、はい」
たすくの隣に立つ華やかなロングヘアの美女、ひなたを値踏みするように見つめる。
美女
軽い口調で、たすくの腕を取り
「えーなに、たすくの知り合いなの? この子」
ひなた
(小さく、ぎこちなく)
「お久しぶりです」
ひなた、美女を見て卑屈な気分に飲み込まれ、声をかけたことを後悔する戸惑い顔。
たすく 真剣な顔をして美女の腕を振り払い、ひなたの腕をつかむ。
たすくの顔アップ ひなた真っ赤になる
たすく
「一人暮らししてんのか?」
ひなた こくりと頷く
たすく
(ポケットからレシートを取り出し、電話番号を書き、ひなたに渡す)
「どこに住んでる?」
ひなた
(動揺 目を合わせず)
「K駅です」
たすく
(顔を近づけ)
「……電話しろよ」
美女、つまらなそうに腕を組みその様子を眺める。
ひなた、レシートを握りしめ、ドキドキが止まらない。
居酒屋・元の座敷
ひなたと元の座敷に戻る。ひなた、ポケットの中のレシートを意識しながら、中性的な美少年 あお君に話しかけられる。
あお
(穏やかに ちょっとひなたを意識している顔)
「さっきの人、知り合い?」
ひなた
(少し躊躇いながら)
「あー、うん。昔ちょっと」
回想カット
海辺を二人で自転車に乗るキラキラしたシーン
ひなた
(一緒に暮らしていたなんて言えない)
ひなた
(二度と会えないと思ってたのに)
回想シーン
海辺の街・移動中
モノローグ
【4年前──たすく君と私は家族になった。ほんのわずかの間だけの──】
電車から見える海を浮かない顔で見ているひなた
海辺の美しい街に向かう道。
生ぬるい潮風がひなたの頬を撫で、遠くで波の音が聞こえる。
母は希望に満ちた顔。ひなたはそんな母をチラリと見る。
ひなた
祈るような表情
(どうかお母さんの最後の結婚になりますように)
新しい家・外観
白く立派な一戸建て、豪邸と呼ぶにふさわしい家が目の前に現れる。広い庭には手入れされた芝生が広がり、上品だが一目でお金がかかっていそうな建物。ひなたと母かなえ、家の前に立つ。
かなえ、37歳とは思えない若々しさ。色白の肌に色素の薄いふわふわの髪、少女のような雰囲気を漂わせる。色気というより、どこか純粋な魅力がある。
ひなた かなえをちらりと見る
(お母さんの結婚も4度目か……)
かなえ ほほえみ
「すごく優しい人なの。ひなたのいいお父さんになるわ」
ひなた 本心を隠して無理に微笑む
「うん」
新しい家・リビング
リビングに通されるひなたとかなえ。広い部屋には高級そうな家具が並び、窓から庭の緑が見える。出迎えたのは、昔ハンサムだった雰囲気の優しそうな男性、正次と大きなゴールデンリトリバー。犬、ひなたに近づき、歓迎するように頬をすりつける。
ひなた少し緊張が緩む。
かなえ
ひなたのだんまりを見て、申し訳なさそうに
「ごめんなさいね。少し緊張しているみたいで」
正次
穏やかに微笑み
「それはそうだよ。知らない人と暮らすなんてこの年頃の女の子にはとてもきついことだろう」
ひなた、黙って正次を見つめる。正次を警戒している。
正次
ひなたに優しく
「もしも不安だったら、一緒に暮らすのはもう少し先でもいいんだよ」
ひなた
小さく、だがしっかり
「私はお母さんが幸せなら、大丈夫です」
かなえ、ひなたの言葉に目を潤ませる。
かなえ
涙ぐみながら
「この子にも今まで苦労をかけたから」
ひなた、正次を見る。
ひなた むずかしい顔(どうしたら37才の×3でこんないい人を捕まえられるの?)
ひなた(これでさすがにお母さんも落ち着いてくれるだろう)
リビング・たすくの登場
リビングのドアがガチャリと開く。現れたのは、制服姿で金に近い薄茶色の髪にグレーっぽい瞳の少年、たすく。背が高く、顔が小さく、手足が長い。少女漫画の王子様のような容姿に、ひなたも息をのむ。
正次
(たすくに明るくほほえみ)
「おかえり。たすく君。この前話したかなえさんとひなたちゃん」
たすく、ひなたとかなえをちらりと一瞥。
たすく
興味のなさそうな顔
「どうも」
たすく、ペコリと軽く頭を下げ、冷蔵庫からコーラを取り出し一気飲み。自分の部屋へ去ろうとするのを、正次が止める。
正次
いさめるように
「これ、新しいお母さんと妹だよ。ちゃんと挨拶なさい」
たすく
(冷たく、かなえを頭から足まで眺め)
「親父の妻と娘にはなっても、俺の母親や妹ではない」
たすくの瞳には拒絶の意思。ひなたには目もくれず、そっけなく階段を上がる。ゴールデンリトリバーが忠実にその後を追う。
正次
(申し訳なさそうに)
「すまないね。再婚自体は賛成してくれてるんだ。ただ自分は関係がないというスタンスでね」
かなえ
穏やかに
「難しい年ごろですものね」
ひなた
(いきなり知らない人と同居なんて、イヤに決まってるよ)
ひなた、暗い顔
かなえ
明るく、ひなたに
「すっごいかっこいいお兄ちゃんができるのね、ひなた。学校で自慢できるわ」
夜 リビング・夕飯 4人の気まずい食卓
ひなた、気まずさから、ゴールデンリトリバーに目をやる。
ひなた
(控えめに)
「あの、犬の名前はなんていうんですか」
正次
(笑顔で)
「コウシャクっていうんだ」
ひなた
「コウシャク?」
かなえ
(楽しそうに)
「正次さんのおじい様はイギリス人の侯爵だったんですって」
ひなた 驚く
「そんなすごいおうちなんですか?」
たすく ぼそっと
「すごくねーよ」
正次
穏やかに微笑み
「たすくの同級生の家で生まれた犬なんだけど、名づけしてからうちにくれたんだ」
かなえ
軽く笑い
「あっちなら貴族だものね」
正次
「はは。そんなの日本じゃ通じないよ。僕は普通の日本人顔だけど、隔世遺伝でたすくは少し向こうの血が色濃く出たみたいだね」
たすく ぶすっとした顔
ひなた ご飯を口に運びながら
(クォーターの半分ってなんていうんだろ)
かなえ
「名前といえば、たすくって名前素敵よね」
正次
(たすくの名前の由来を語る)
「たすくって名前は、将来人を助けられる人間になるようにってつけたんだ」
かなえ
(柔らかく)
「素敵な名前ねぇ。ひなたは、陽の当たる場所で明るく元気に育つようにってつけたの」
正次とかなえ、子供の名前の話で穏やかに微笑み合う。
たすく 無言で食べ続ける。
ひなた
二人の様子を見て
(たすく君には悪いけど、いつでもどこでも私はお母さんの幸せだけを願っている)
ひなた、テーブル下のコウシャクがじゃれてきくるのを撫でる。
店内の喧騒、カラフルなグラス、わいわいと盛り上がるサークルの新入生歓迎会。
ひなた、奥の座敷の隅に座っている。
コーラのグラスを手に、笑顔を浮かべながらも、明らかに会話の輪に入りきれていない。
ひなた
(勧誘されてつい来ちゃったけど、場違いだな)
周囲の笑い声。陽キャの集まり
学生モブ
「んじゃ新入生から自己紹介しよっか。そこのボブの子から」
ひなた 緊張して
「K県から来ました。春日ひなたです」
先輩女子A(明るく)
「家では何してるの?」
ひなた(戸惑いながら)
「えっと……得意ではないんですけど、プログラミングが好きで、自作のロボット作ったり」
女子A 引き気味
「へ、へぇ。すごいね」
微妙な空気。笑う人も、引く人もいる。
男子学生モブ ちょっと馬鹿にしか感じで
「俺らみたい学生とはレベルが違うねー」
ひなた 下を向く
(やらかしたかな。読書とか言えばよかったんだ)
小さくため息をつく。
会話の輪から少し離れ、そっと席を立って手洗いに。
居酒屋・店内(別の座敷)
手洗いから戻ると
隣の座敷では、別のサークルが新入生歓迎会で盛り上がっている。ひなた、ふとそちらに目をやる。
モブの声
「たすくー、もう帰るのかよ!」
たすく
(だるそうに)
「あー」
ひなた
(たすく? それに今の声)
女性の声
(明るく)
「待って、たすくが帰るなら私も帰る」
ひなた、驚いた顔。
(た、たすくってまさか)
金髪に近い明るい髪。細身のシルエット、長い手足、小さな頭。たすくの後ろ姿が視界に入る。
ひなた 驚いた顔
(思わず呟く)
「たすく君…?」
たすく、振り返る。真顔に。
日本人離れした王子様みたいなルックスだが一見冷たそうな無表情な顔。ひなたを見て、一瞬動きが止まる。
たすく じっとひなたを見つめる アップ
ひなた(驚きを隠そうと平静を装う)
「ヒナ、東京来たのか。まさかI大?」
ひなた
(え、もしかして同じ大学だったの?)
「は、はい」
たすくの隣に立つ華やかなロングヘアの美女、ひなたを値踏みするように見つめる。
美女
軽い口調で、たすくの腕を取り
「えーなに、たすくの知り合いなの? この子」
ひなた
(小さく、ぎこちなく)
「お久しぶりです」
ひなた、美女を見て卑屈な気分に飲み込まれ、声をかけたことを後悔する戸惑い顔。
たすく 真剣な顔をして美女の腕を振り払い、ひなたの腕をつかむ。
たすくの顔アップ ひなた真っ赤になる
たすく
「一人暮らししてんのか?」
ひなた こくりと頷く
たすく
(ポケットからレシートを取り出し、電話番号を書き、ひなたに渡す)
「どこに住んでる?」
ひなた
(動揺 目を合わせず)
「K駅です」
たすく
(顔を近づけ)
「……電話しろよ」
美女、つまらなそうに腕を組みその様子を眺める。
ひなた、レシートを握りしめ、ドキドキが止まらない。
居酒屋・元の座敷
ひなたと元の座敷に戻る。ひなた、ポケットの中のレシートを意識しながら、中性的な美少年 あお君に話しかけられる。
あお
(穏やかに ちょっとひなたを意識している顔)
「さっきの人、知り合い?」
ひなた
(少し躊躇いながら)
「あー、うん。昔ちょっと」
回想カット
海辺を二人で自転車に乗るキラキラしたシーン
ひなた
(一緒に暮らしていたなんて言えない)
ひなた
(二度と会えないと思ってたのに)
回想シーン
海辺の街・移動中
モノローグ
【4年前──たすく君と私は家族になった。ほんのわずかの間だけの──】
電車から見える海を浮かない顔で見ているひなた
海辺の美しい街に向かう道。
生ぬるい潮風がひなたの頬を撫で、遠くで波の音が聞こえる。
母は希望に満ちた顔。ひなたはそんな母をチラリと見る。
ひなた
祈るような表情
(どうかお母さんの最後の結婚になりますように)
新しい家・外観
白く立派な一戸建て、豪邸と呼ぶにふさわしい家が目の前に現れる。広い庭には手入れされた芝生が広がり、上品だが一目でお金がかかっていそうな建物。ひなたと母かなえ、家の前に立つ。
かなえ、37歳とは思えない若々しさ。色白の肌に色素の薄いふわふわの髪、少女のような雰囲気を漂わせる。色気というより、どこか純粋な魅力がある。
ひなた かなえをちらりと見る
(お母さんの結婚も4度目か……)
かなえ ほほえみ
「すごく優しい人なの。ひなたのいいお父さんになるわ」
ひなた 本心を隠して無理に微笑む
「うん」
新しい家・リビング
リビングに通されるひなたとかなえ。広い部屋には高級そうな家具が並び、窓から庭の緑が見える。出迎えたのは、昔ハンサムだった雰囲気の優しそうな男性、正次と大きなゴールデンリトリバー。犬、ひなたに近づき、歓迎するように頬をすりつける。
ひなた少し緊張が緩む。
かなえ
ひなたのだんまりを見て、申し訳なさそうに
「ごめんなさいね。少し緊張しているみたいで」
正次
穏やかに微笑み
「それはそうだよ。知らない人と暮らすなんてこの年頃の女の子にはとてもきついことだろう」
ひなた、黙って正次を見つめる。正次を警戒している。
正次
ひなたに優しく
「もしも不安だったら、一緒に暮らすのはもう少し先でもいいんだよ」
ひなた
小さく、だがしっかり
「私はお母さんが幸せなら、大丈夫です」
かなえ、ひなたの言葉に目を潤ませる。
かなえ
涙ぐみながら
「この子にも今まで苦労をかけたから」
ひなた、正次を見る。
ひなた むずかしい顔(どうしたら37才の×3でこんないい人を捕まえられるの?)
ひなた(これでさすがにお母さんも落ち着いてくれるだろう)
リビング・たすくの登場
リビングのドアがガチャリと開く。現れたのは、制服姿で金に近い薄茶色の髪にグレーっぽい瞳の少年、たすく。背が高く、顔が小さく、手足が長い。少女漫画の王子様のような容姿に、ひなたも息をのむ。
正次
(たすくに明るくほほえみ)
「おかえり。たすく君。この前話したかなえさんとひなたちゃん」
たすく、ひなたとかなえをちらりと一瞥。
たすく
興味のなさそうな顔
「どうも」
たすく、ペコリと軽く頭を下げ、冷蔵庫からコーラを取り出し一気飲み。自分の部屋へ去ろうとするのを、正次が止める。
正次
いさめるように
「これ、新しいお母さんと妹だよ。ちゃんと挨拶なさい」
たすく
(冷たく、かなえを頭から足まで眺め)
「親父の妻と娘にはなっても、俺の母親や妹ではない」
たすくの瞳には拒絶の意思。ひなたには目もくれず、そっけなく階段を上がる。ゴールデンリトリバーが忠実にその後を追う。
正次
(申し訳なさそうに)
「すまないね。再婚自体は賛成してくれてるんだ。ただ自分は関係がないというスタンスでね」
かなえ
穏やかに
「難しい年ごろですものね」
ひなた
(いきなり知らない人と同居なんて、イヤに決まってるよ)
ひなた、暗い顔
かなえ
明るく、ひなたに
「すっごいかっこいいお兄ちゃんができるのね、ひなた。学校で自慢できるわ」
夜 リビング・夕飯 4人の気まずい食卓
ひなた、気まずさから、ゴールデンリトリバーに目をやる。
ひなた
(控えめに)
「あの、犬の名前はなんていうんですか」
正次
(笑顔で)
「コウシャクっていうんだ」
ひなた
「コウシャク?」
かなえ
(楽しそうに)
「正次さんのおじい様はイギリス人の侯爵だったんですって」
ひなた 驚く
「そんなすごいおうちなんですか?」
たすく ぼそっと
「すごくねーよ」
正次
穏やかに微笑み
「たすくの同級生の家で生まれた犬なんだけど、名づけしてからうちにくれたんだ」
かなえ
軽く笑い
「あっちなら貴族だものね」
正次
「はは。そんなの日本じゃ通じないよ。僕は普通の日本人顔だけど、隔世遺伝でたすくは少し向こうの血が色濃く出たみたいだね」
たすく ぶすっとした顔
ひなた ご飯を口に運びながら
(クォーターの半分ってなんていうんだろ)
かなえ
「名前といえば、たすくって名前素敵よね」
正次
(たすくの名前の由来を語る)
「たすくって名前は、将来人を助けられる人間になるようにってつけたんだ」
かなえ
(柔らかく)
「素敵な名前ねぇ。ひなたは、陽の当たる場所で明るく元気に育つようにってつけたの」
正次とかなえ、子供の名前の話で穏やかに微笑み合う。
たすく 無言で食べ続ける。
ひなた
二人の様子を見て
(たすく君には悪いけど、いつでもどこでも私はお母さんの幸せだけを願っている)
ひなた、テーブル下のコウシャクがじゃれてきくるのを撫でる。
