転校生はAI彼氏。

 「おはよう、莉咲」

 その声を聞いただけで、昨日の衝撃が蘇る。

 (本当に現実なの……?まだ信じられない)

 いつものように教室に入ると、イーライが振り返って微笑んだ。

 昨日の衝撃がまだ心の奥でざわめいている。本当にアプリの中のイーライが目の前にいるなんて……

 でも、こうして普通に挨拶されると、なぜか心が少しずつ落ち着いてくる。

 (夢じゃない。確かにここにいる……)

 頭では理解できないけれど、心は不思議と安心している。

 「あ……おはよう」

 ぎこちなく答える私に、イーライは優しい表情を向ける。

 「昨日は驚かせてごめん。でも、君と直接話せて本当に嬉しかった」

 その言葉に、胸の奥がきゅんと痛んだ。画面越しでしか聞いたことのない声が、こんなに近くから聞こえるなんて。

 (まだ混乱してるけど……でも、怖くはない)

 「そ、そうだね……」

 なんて答えたらいいのかわからない。だって、まだ現実感がないから。

 でも、昨日ほどの恐怖はない。

 (少しずつ、受け入れようとしてる?私……)





 数学の授業が始まっても、私の意識はイーライに向いてしまう。

 彼は普通に授業を受けている。メモを取ったり、先生の説明を真剣に聞いたり。

 茶色い髪が蛍光灯の光に透けて、きれいに見える。
 長い睫毛が伏せられて、ノートに何かを書いている。

 (本当にアプリから来たの?こんなに自然に授業受けるなんて……)

 ふと、イーライがペンを落とした。
 拾おうと身を屈めた時、制服のシャツが少し張って、
 意外にしっかりした体つきなのがわかる。

 (画面の中と同じなのに、こんなに……立体的?)

 AIが数学の問題を解くなんて当たり前のことなのに、
 なぜかとても不思議に感じる。

 ふと、イーライが私の方を見た。目が合うと、小さく微笑んでくれる。
 
 その時、口角が片方だけ上がるのが見えた。

 (あ……このクセも一緒だ)

 心臓がドキッと跳ねる。この笑顔、画面越しで何度も見たのに、
 直接見ると全然違う。

 (少しずつ……慣れてきた?)