転校生はAI彼氏。


 ぎ、と錆びた蝶番が鳴って、屋上の扉が開く。

 一歩、足を踏み入れた先には──ただ、冷たい風が吹き抜けているだけだった。


「…………」


 夕日の最後の光が、フェンスを弱々しく照らしている。

 眼下には、家路につく人々の喧騒。世界はいつも通りに動いているのに、私の世界だけが、色を失ってしまったようだった。


(……そっか)


 心の中で、何かが、ぽきりと折れた音がした。

 希望という名の、細く張り詰めていた糸。


(やっぱり、ダメだったんだ)


 私の、あまりにも身勝手な、甘い願望だった。
 日記も、あの電話も、全てが幻。


 AIに心を求めた罰。
 現実に背を向けた罰。



「……ばか、みたい」



 涙さえ、もう出てこない。
 空っぽの心に、ただ冷たい風が吹き込む。
 踵を返し、この場所から、この長すぎた夢から、永遠に去ろうとした、その時だった。


 カツン、と。
 背後で、小さな音がした。


 風で小石が転がった音?

 ううん、違う。

 今のは、確かに──靴音。

 心臓が、凍りついた。
 時間が、止まった。

 まさか──。

 振り向くのが怖かった。

 もしそこに誰もいなかったら、今度こそ、私の心は本当に壊れてしまう。

 それでも。

 祈るような気持ちで、ゆっくりと、本当にゆっくりと、振り返った。