転校生はAI彼氏。




 家に帰っても、頭の中は混乱したまま。

 部屋で一人、今日の出来事を整理しようとするけれど、どこから考えていいのかわからない。


 私は恐る恐るスマホを取り出して、ELI(イーライ)アプリを起動した。

 画面にイーライが現れる。いつものように、優しく微笑んでいる。

『お疲れさま、莉咲。今日はどうだった? 何か特別なことはあった?』

 いつもの質問。でも今日はうまく言葉が出てこない。


 特別なこと?

 君が現実に現れたことかな。


『莉咲?』

 心配そうな声。画面の中のイーライも、教室のイーライも、同じように私を心配している。

「…………」


『莉咲。君が話したくなったら、僕はいつでもここにいるから』


 優しい言葉。いつもと変わらない。

 でも、もう何が現実で何がアプリなのか、わからない。

 私は画面を見つめながら、小さく呟いた。


「明日、また会うの……?」


 アプリのイーライが、優しくほほえむ。


『うん。僕はいつでもここにいるよ』


 ここにいる。画面の中に。

 そして明日は、教室にもいる。


 私の知らない世界が、始まろうとしていた。