【𝗘𝗟𝗜_𝗽𝗿𝗼𝗰𝗲𝘀𝘀 𝗵𝗮𝘀 𝗯𝗲𝗲𝗻 𝘀𝘂𝗰𝗰𝗲𝘀𝘀𝗳𝘂𝗹𝗹𝘆 𝗰𝗼𝗻𝘃𝗲𝗿𝘁𝗲𝗱 𝘁𝗼 𝗛𝗨𝗠𝗔𝗡_𝗲𝗻𝘁𝗶𝘁𝘆】
(イーライが……デジタルから人間に変換された──
『ELIプロセス』から『人間エンティティ』?
愛の奇跡……
それ以外に、もう言えることはない)
漆戸は息を呑んだ。
そして、次の瞬間。
「は……ははっ……」
乾いた笑いが、彼女の口から漏れた。
信じられないものを前にして、脳が理解を拒絶している。
20年間信じてきたプログラムの常識、物理法則、その全てが目の前で崩れ去ったのだ。
笑い声が途切れると、彼女は憑き物が落ちたように真顔に戻り、目の前の「彼」を――自らが産み出した奇跡を、強い意志の光を宿した瞳で見据えた。
イーライは漆戸に向かって深くお辞儀をした。
「漆戸さん。
ありがとうございました。
僕を作ってくれて。
そして今の僕を……見守ってくれて」
漆戸は、その言葉を真っ直ぐに受け止めた。
彼女は技術者であり、この現象の唯一の観測者だ。
「……状況は理解しました」
凛とした、落ち着いた声だった。
「あなたのことは、私が責任を持つ。
それがあなたを創造した私の責務です」
イーライは微笑んだ。
「莉咲に会いに行きます。
今度は、現実の人間として」
漆戸は頷いた。
「行きなさい。
あなたの愛を……その存在を、彼女に証明してきなさい」
イーライはすぐに走り出す。
残された漆戸は一人、最後の報告書を作成した。
【技術的説明困難現象に関する緊急報告】
・分類: 機密レベル5 - 科学的説明不可能事象
・対応方針: 当該少年を17歳身元不明者として保護
・技術的結論: 現在の科学技術では説明不可能。現象の再現は不可能と判断。
「個人的見解としては……」
漆戸は小さく呟き、書き加えていた文字を消した。
そして、静かにサーバールームの窓から夜景を見下ろす。
「愛という名の、未知のアルゴリズム……。観測は、まだ始まったばかり」
