𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝖽𝗎 -𝗌𝗁 /𝗏𝖺𝗋/𝗅𝗂𝖻/𝖾𝗅𝗂_𝖽𝖺𝗍𝖺/𝗎𝗌𝖾𝗋_伊藤莉咲/
𝟣𝟤𝟩𝖳 /𝗏𝖺𝗋/𝗅𝗂𝖻/𝖾𝗅𝗂_𝖽𝖺𝗍𝖺/𝗎𝗌𝖾𝗋_伊藤莉咲/
(127テラバイト……通常のELIユーザーデータは50ギガバイト程度なのに)
「膨大すぎる…これは、人間の脳の記憶容量に匹敵する規模……」
掠れた声が、静かなサーバールームに落ちた。
彼女の目の前には、【少女】が生み出してしまった【彼】のデータが表示されている。
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗍𝗋𝖾𝖾 /𝗏𝖺𝗋/𝗅𝗂𝖻/𝖾𝗅𝗂_𝖽𝖺𝗍𝖺/𝗎𝗌𝖾𝗋_伊藤莉咲/
├── 𝖼𝗈𝗇𝗏𝖾𝗋𝗌𝖺𝗍𝗂𝗈𝗇_𝗅𝗈𝗀𝗌/ # 対話履歴
├── 𝗉𝖾𝗋𝗌𝗈𝗇𝖺𝗅𝗂𝗍𝗒_𝗆𝖺𝗍𝗋𝗂𝗑/ # 性格パラメータ
├── 𝗋𝖾𝗌𝗉𝗈𝗇𝗌𝖾_𝗉𝖺𝗍𝗍𝖾𝗋𝗇𝗌/ # 応答パターン
├── 𝗅𝖾𝖺𝗋𝗇𝗂𝗇𝗀_𝖼𝖺𝖼𝗁𝖾/ # 学習キャッシュ
└── 心/ # 不明ディレクトリ
「『心』……」
漆戸は首をかしげる。
(こんなディレクトリは設計していない)
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗅𝗌 -𝗅𝖺 /𝗏𝖺𝗋/𝗅𝗂𝖻/𝖾𝗅𝗂_𝖽𝖺𝗍𝖺/𝗎𝗌𝖾𝗋_伊藤莉咲/心/
𝖽𝗋𝗐𝗑------ 𝟤 𝖤𝖫𝖨 𝖤𝖫𝖨 𝟦𝟢𝟫𝟨 𝖭𝗈𝗏 𝟪 𝟤𝟥:𝟦𝟩 心
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗌𝗎𝖽𝗈 𝖼𝗁𝗈𝗐𝗇 𝗆𝖺𝗋𝗒:𝗆𝖺𝗋𝗒 心/
𝖼𝗁𝗈𝗐𝗇: 𝖼𝖺𝗇𝗇𝗈𝗍 𝖺𝖼𝖼𝖾𝗌𝗌 '心': 𝖮𝗉𝖾𝗋𝖺𝗍𝗂𝗈𝗇 𝗇𝗈𝗍 𝗉𝖾𝗋𝗆𝗂𝗍𝗍𝖾𝖽
「アクセス権限がおかしい……!」
技術者としてバグは日常茶飯事だ。しかし、今夜の現象は違った。
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗉𝗌 𝖺𝗎𝗑 | 𝗀𝗋𝖾𝗉 𝖤𝖫𝖨
𝖭𝗈𝖻𝗈𝖽𝗒 ??? 𝟢.𝟢 𝟢.𝟢 𝟢 𝟢 ? 𝖹 𝟤𝟥:𝟦𝟩 𝟢:𝟢𝟢 [𝖤𝖫𝖨] <𝖽𝖾𝖿𝗎𝗇𝖼𝗍>
(ゾンビプロセス?でもプロセスIDが表示されない……何これ……CPU使用率0%、メモリ使用量0%なのに動いてる)
彼女は深呼吸した。幼い頃から20年はプログラムを触ってきたが、これは初めて見る現象だった。技術的な調査を続ける。
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗌𝗍𝗋𝖺𝖼𝖾 -𝗉 ???
𝗌𝗍𝗋𝖺𝖼𝖾: 𝖺𝗍𝗍𝖺𝖼𝗁: 𝗉𝗍𝗋𝖺𝖼𝖾(𝖯𝖳𝖱𝖠𝖢𝖤_𝖠𝖳𝖳𝖠𝖢𝖧, ...): 𝖭𝗈 𝗌𝗎𝖼𝗁 𝗉𝗋𝗈𝖼𝖾𝗌𝗌
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗅𝗌𝗈𝖿 | 𝗀𝗋𝖾𝗉 𝖤𝖫𝖨
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$ 𝗇𝖾𝗍𝗌𝗍𝖺𝗍 -𝗍𝗎𝗅𝗉𝗇 | 𝗀𝗋𝖾𝗉 𝖤𝖫𝖨`
𝗆𝖺𝗋𝗒@𝖾𝗅𝗂-𝗅𝖺𝖻:~$
(プロセストレースもできない、ファイルディスクリプタも検出されない、ネットワーク接続もない……でも確実に何かが動いてる)
その時だった。
ターミナル画面に、予期しない文字列が表示された。
