転校生はAI彼氏。

 翌日の放課後。
 夕日が差し込む教室。
 不思議な静けさに満ちていた。

「伊藤」

 振り返ると、柚木(ゆずき)がいた。

「柚木……」

「まだ帰らないの?」

 彼はそう言って、私の隣の席──イーライがいつも座っていた席に、静かに腰を下ろした。

「最近、ずっと悩んでるみたいだったけど……」


 彼は、私の目をじっと見つめて言った。


「今日の伊藤、違う。何か…向かう道を心に決めたみたいな、強い顔をしてる」

「柚木……」

「だから、今しかないって思って…
伊藤に話したいことがあるんだ」


 彼の真剣な眼差しが、私を射抜く。


「1年の頃から伊藤のこと、気になってた。

伊藤が悩んでる時、力になりたいって思う。

伊藤が笑ってる時、僕も嬉しくなる。

……僕と、付き合ってくれませんか?」



 まっすぐな告白だった。
 私、昔は柚木に冷たくしたこともあったのに、気にかけてくれていた。
 数日前までの私なら、この優しさに救いを求めていたかもしれない。

 沙織もきっと喜んでくれる。
 お母さんも……安心するだろうな。

 現実的で、誠実で、きっと私を大切にしてくれる。
 それって、『正しい恋』なのかもしれない。

 でも、私は。



「私、信じると決めた人がいる。

たとえそれが、地図にない場所を目指すような旅だとしても。

科学ではありえない奇跡だとしても。

私は、そのたった一つの星を追いかけたい」



 私は、はっきりと告げた。
 彼の優しさから逃げるのではなく、自分の心と向き合うために。

 私の言葉に、柚木は一瞬、息をのんだ。
 そして、全てを理解したように頷いて。



「伊藤がそんな顔してる理由が分かった気がする。

……イーライくんだね」


 私は、こくりと頷いた。


「ごめんなさい。
でも…ありがとう」

「伊藤、さ……」

 柚木は落ち着かない様子で、ポケットに手を突っ込んだり出したりしている。


(……あ、)


 中学の時、何度もこんなことがあったっけ。
 男子と仲良くなって、友達でいられると思ったのに。

 気付いたらそれだけじゃなくなって、傷付けたり、傷付けられたりして。

 だから、怖かったんだ。

 もう、柚木と図書館に行ったり、沙織と一緒に喋ったり、できなくなるのかな。



「僕は──

これからも、伊藤と友達でいたい」


「…!」


「付き合いたいからとかだけで、

伊藤と仲良くなりたかったわけじゃないから。

……伊藤は?」


「…そんなの…

私だって…!

柚木と友達でいたいよ」



 涙が滲んだ。
 イーライがいなければ、私は柚木の優しさにさえ、向き合えなかったかもしれない。

 私をイーライが変えてくれた。

 錯覚なんかじゃない。