転校生はAI彼氏。

「イーライ…?」

 ありえない。
 ありえないはずの、イーライからの着信。

「うそ…」

 漆戸(うるしと)さんは言った。ELI(イーライ)のデータは、完全に削除した、と。
 なのに、どうして。

 鳴り響く着信音と、画面に表示された『イーライ』の三文字が、夢じゃないと告げている。

 震える手で、通話ボタンに触れる。
 耳に当てたスマホが、やけに冷たく感じた。

「もしもし……?」

『――莉咲(りさ)

 ノイズの向こうから、彼の声が聞こえた。

 途切れ途切れで、雑音がひどい。でも、間違いなくイーライの声だった。

「イーライ!? 聞こえる! あなたなの?!」

『……まだ──

僕の声が──

聞こえる…?』

 その声は、苦しそうで。まるで嵐の向こうから必死に叫んでいるみたいだった。

「聞こえるよ!
イーライ、どこにいるの?
あなたのデータは削除されたって……」

『消え──たくない……』

彼の悲痛な声が、ノイズ混じりに鼓膜を揺らす。

『君に──会いたい──!』

「私も……! 私も会いたい! ごめん、あんな酷いこと言って……!」

 涙が溢れて、視界が滲む。

 謝りたかった。

 ずっと、ずっと後悔していた。

『……』

 でも、返事はない。

 ただ、無機質なノイズが響くだけ。

「イーライ? ねえ、イーライ!」

『――』

 プツッ、という音と共に、通話は切れた。
 静まり返った街のざわめきが、急に耳に戻ってくる。