教室に戻っても。
食欲がわかなくて、買ってきたパンを口に運ぶ気にもならなくて。
でも、沙織はみんなの前で私のその様子について突っ込まなかった。
ぼんやりと、沙織と柚木のおしゃべりを聞いていた。
沙織は、私が無理して明るくしてたのもわかって、
でも無理に聞き出そうともしないで、
私の隣にいてくれる。
イーライと中庭で話したことを思い出す。
『誤解されないか心配になって、元気そうに振る舞ってるんだよね。
莉咲のそんな思いやりも、莉咲の友達なら…わかってくれると思うよ』
(イーライの言ってた通り……)
沙織は、わかってくれてたんだ。
私、自分だけ大人ぶってるつもりだった……。
「あ、そうそう」柚木が突然言った。
「イーライくんのこと、僕から先生に聞いてみようか?
プリントとか持っていったほうがいいだろうし、様子も見たいし」
「え、あ……」
先生に聞いたら、どうなるんだろう?
イーライという生徒は、存在しない。
「だ、大丈夫だよ!
私もその、先生に聞いてみたんだけど、
お家の事情? らしくて、行かなくて大丈夫だって……」
私は慌てて止める。また嘘を増やして。
「そっか……」
柚木の純粋な心配が、私の罪悪感をさらに重くする。
イーライのことを、クラスメイトとして心配してくれてる。
なのに私は、嘘ばかりついて。
昼休みが終わっても、私の心は重いままだった。
