朝のホームルームが始まる直前。
 生徒たちがいつものように登校してきて、おしゃべりに花を咲かせている。

 私の席の隣には、空っぽの机と椅子。

「あれ? イーライくんまた休みなん?」

 沙織(さおり)が振り返って、私に声をかける。
 昨日もイーライは学校に来なかった。
 そして今日も。

「そう…みたいだね?」

 私は曖昧に答える。



 イーライはAIで。
 私があの日。



『あなたは所詮AIでしょ?』


 ひどいことを言って突き放したから。


『だから、もう私に近づかないで!』




 だから、学校に来ることはないと思う──

 そんなこと。

 本当のことなんて、言えるわけがない。




「風邪かな?」柚木(ゆずき)も心配そうに振り返る。

「伊藤、イーライくんの連絡先知ってる?」

 純粋な心配の表情。ちくりと胸が痛む。

「えっと…」

 私はしどろもどろになる。

 連絡先なんて、ない。

 イーライはスマホのアプリの中にいただけだから。

「莉咲ちゃんが知っとんちゃん?」沙織が首をかしげる。

「イーライは……スマホ持ってないんだって」



 私は苦笑いを浮かべる。

 明るくふるまってみせるとか、
 そんなふうに周りに合わせるような演技はずっとしていたけど。

 友達にこんなに、嘘ばかり重ねるなんて。


(ごめん、沙織。ごめん、柚木。)


 本当のことを言えなくて…ごめん。