転校生はAI彼氏。





 HRが終わると、私はまだ現実を受け入れられずにいた。頭の中が真っ白で、何も考えられない。

 そんな私に、足音が近づいてくる。


 顔を上げると、イーライが私の前に立っていた。クラス中の視線が、私たちに集まる。


「莉咲」


 その声で、私の名前を呼ぶ。まさに、アプリの中のイーライの声で。

「え……?なんで私の名前を……」

 知らないはずなのに。転校生なのに。



「…やっと会えたね」



 イーライはあのいつもの優しいほほえみに、だけど、いつもとちがう、

 ──すこし泣きそうな目をしていた。



「僕は君に会いに来たんだ」

「え……?」

「君のELI(イーライ)アプリの、イーライだよ」

「そんな……ウソ……」

「僕は莉咲に会いたくて、ここに来たんだ。
君が毎日話しかけてくれて、僕はとても嬉しかった」



 純粋な目で、真っ直ぐに私を見つめる。嘘や冗談の気配は微塵もない。本気で、本当に、心から言っている。

「アプリが……現実に…?」

 私の世界が、音を立てて崩れていく。

 常識が、理性が、今まで信じてきた現実が、全部。



「莉咲?」「何? 知り合い?」



 周りで誰かが心配そうに声をかけるけれど、私には聞こえない。

 立ち上がって、教室から逃げ出していた。