転校生はAI彼氏。

 夜中の2時。

 ベッドで天井を見つめている。

 眠れない。

 明日も学校に行けるとは思えない。

 このまま、ずっと逃げ続けるしかないのかもしれない。

 そんなとき。

 コツン、コツン。

 窓に何かが当たる音。

 最初は風かと思った。

 でも、規則的すぎる。

 恐る恐る窓に近づいて、カーテンを少しめくる。

 下を見ると……

沙織(さおり)ちゃん?」

 沙織ちゃんが立っている。手に小石を持って。

 私に気づくと、手を振って口の形で「下に降りて」と言っている。

 心臓がドキドキする。

 こんな夜中に何で……?

 そっと階段を降りて、玄関のドアを開ける。

「沙織ちゃん……どうして……?」

莉咲(りさ)ちゃん! よかった、気づいてくれて」

 沙織ちゃんの表情は深刻だった。

「あんな……イーライくんが」

 その名前を聞いた瞬間、身体が固まる。

「イーライくんが、ずっと待ってんねん。学校で」

「待ってるって……?」

「今日の放課後から、ずっと教室におんの。『莉咲が来るまで待つ』って。帰らへんゆうて」

 心臓が止まりそうになった。

 イーライが……まだそこにいる。

 私の錯覚じゃなくて、沙織ちゃんにも見えてる。

 しかも……待ってる?

「沙織ちゃん……」

「莉咲ちゃん、何があったん…?
言われへんことやったらしゃあないけど…。
イーライくんもめっちゃ心配してるで。
『僕が何かしてしまったのかな』って、何度も聞いてきて」

 胸が痛くなる。

 また巻き込んでしまってる。

 私の錯覚に、大切な友達まで……

「せやから、柚木(ゆずき)も『何か僕たちにできることない?』って言うてて……」

 ダメだ。

 どんどん深みにはまっていく。

 みんながイーライを当たり前に受け入れてしまってる。

 この状況を、私が作ってしまった。

「莉咲ちゃん……明日、学校来たって。お願い」

 沙織ちゃんの必死な表情。

 私のせいで、こんなに心配をかけてしまって……

「……分かった」

 小さく答える。

「明日は、行くね」

「よかった! ほな、明日な」

 沙織ちゃんが安堵の表情を見せて、帰っていく。

 玄関のドアを閉めた後、膝から力が抜けた。

 どうしよう。

 どうすればいいんだろう。

 イーライが……待ってる。

 私のことを。