転校生はAI彼氏。


 お昼過ぎ、家にいるのが息苦しくなった。

 お母さんもお父さんも仕事に出かけて、家には私一人。

 静寂が重い。

 制服を見るのも嫌で、私服に着替えて外に出た。

 平日の昼間の街は、いつもと違って見える。

 私みたいな高校生がいるはずのない時間。
 
 歩いている人たちは、大人ばかり。
 みんな忙しそうで、目的を持っている。

 私だけが、浮いている。逃げている。

 近所の公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げる。

 雲がゆっくりと流れていく。

 時間の感覚がおかしい。
 朝なのか昼なのか、今日なのか昨日なのか。

 スマホがないから、連絡も取れない。

 沙織ちゃんに「イーライのこと」って聞いたら、
 「え? 誰それ?」って言われるかもしれない。

 そうしたら、私の最後の希望も消えてしまう。

 だから、連絡できなくて、むしろ、ほっとしてる。





 夕方、家に帰る。

 玄関を開けると、お母さんがいた。

「おかえり……どこに……?」

 お母さんの声が、戸惑いを含んでいる。

「ちょっと……散歩」

「散歩? 一人で?」

 心配そうな表情。いつもなら「風邪なのに」って叱るところなのに。

 お母さんは私をじっと見つめて、何か言いたそうに口を開いて、また閉じる。

「莉咲……あの、もし何か話したいことがあったら……」

 慎重に、慎重に言葉を選んでいる。

 カウンセリングの話をしようとしてるのが分かる。

 でも、私は首を振る。

「何もない。本当に、ただの風邪だから」

 お母さんは、困ったような表情で黙り込んだ。

 どう接していいか分からないんだ。

 その戸惑いが、かえって痛い。

 普通の娘だったら、こんな風に腫れ物扱いされることもなかったのに。