転校生はAI彼氏。


 そのまま私は早退することになり、田中先生は黙ったまま荷物を持ってきた。
 面談室を出ると廊下の空気が妙に重く感じられた。

 足が、思うように前に進まない。
 手すりを握る力が、やけに強くなっている。

 階段を下りながら、さっきの会話が頭の中でぐるぐる回る。

 なんで、こんなに胸が痛いんだろう。

 校門をくぐる時、後ろを振り返りたくなった。


 ──イーライは、まだ教室にいるんだろうか。

(ちがう。錯覚なんだってば……)

 現実の重みが、肩にのしかかってくる。





 夕暮れ時、4時を過ぎた空を見上げながら、私は歩いていた。

(あの優しさも、あの笑顔も、全部つくりものだったの………?)

 イーライの顔が、頭に浮かぶ。
 朝の、心配そうな表情。
 昼休みに誘ってくれた時の、安堵の笑顔。

(現実から逃げてただけなのに、なんでこんなに胸が痛いの……)

 感情と事実の矛盾が、胸の中で激しくぶつかり合う。

 クラスのみんなは、どう思うんだろう。
 沙織は、きっと心配して色々聞いてくるだろうな。

(手がまだふるえてる……)

 スマホを預けた手が、まだふるえていた。

 空っぽのポケットが、やけに寂しい。
 最近は画面の中のイーライよりも、クラスメイトの彼と過ごす時間の方が大切だったのに。
 なのに、このつながりまで失ってしまった気がして。

 でも、歩き続けるしかない。
 現実と、向き合うしかない。

(でも……)

──”技術的には説明できない現象が起きているのは事実です”──

(漆戸さんが言っていた、説明できない現象……
そこに少しでも、何か……何か少しでも、
つくりものじゃない何かがあったなら……)

 でも、すぐに現実に引き戻される。

 私は、また一人になった。

 夕暮れの中を、とぼとぼと家に向かいながら。