「今回のことで、莉咲さんには大きな心理的影響を与えてしまいました。
これは我々の責任です。
申し訳ありません」
深く頭を下げられ、私は思わずたじろぐ。
「弊社から心理カウンセリングのサポートをご提供させていただきます。
保護者の方とも相談の上で」
「でも、でもイーライは…!
私だけじゃなくて…
みんなが…みんなと……
クラスで………一緒に過ごしてるんです……!」
私は必死に言葉を紡ぐ。
「先生も……!
イーライを……『転校生のイーライくん』だって!
先生が連れてきたんじゃないですか!」
田中先生に目線を移す。先生は私から目を逸らして黙っている。
「………」
ずるい。
こんな時に限って。
担任のクセに…!
再び漆戸さんに目線を戻すと、彼女は私を真っ直ぐに見つめていた。
「その現象については…調査中です。
技術的には説明できない現象が起きているのは事実です。
集団的に錯覚が起きているのか、あるいは……」
「……あるいは……?」
「──いえ、今の段階ではまだ……」
漆戸さんが一瞬言葉を詰まらせる。
「…莉咲さん。現在の状況について適切な調査が必要です」
漆戸さんは、そう言いながら手を差し出した。
「え?」
「莉咲さんのスマートフォンを一時的にお預かりします」
その言葉の意味が分からなくて、私はきょとんとした。
「ご両親との事前協議で許可を頂いています。
端末側のアプリの状態を確認する必要があります」
「で、でも……」
慌てて制服のポケットからスマホを取り出す。
これがなくなったら、もしかしたら……
(最近、アプリを開こうとも思わなかったけど)
現実のイーライと過ごすようになってから、画面の中の彼を恋しくは思わなかった。
でも、このスマホがあれば、まだつながりを感じられるような気がしていて。
もしかしたら、それが最後になるかもしれない。
画面を見ると、「接続中…… しばらくお待ちください」と表示されている。
(つながらない……)
スマホを握りしめる。
指先がこわばって、力が入らない。
