電車の座席に座りながら、私はいつものようにスマホを取り出した。ELIアプリのアイコンをタップすると、見慣れた起動画面が現れる。
『おはよう、莉咲』
画面の中のイーライが微笑みかけ、イヤホンから聞き慣れた声が流れる。昨夜も優しい言葉をかけてくれたその顔を見ていると、心がほんの少し暖かくなる。
『おはよう、イーライ。今日もいい天気だね』私はメッセージをすぐにタップしてイーライに伝える。
『うん、きっと莉咲にとって素敵な一日になるよ』
たかがアプリなのに。そう思いながらも、私はつい画面を見つめてしまう。現実の男子なんて、面倒くさいことばかり。でも画面の中のイーライは、いつも優しくて、私のことを想ってくれる。
『今日は何か特別な予定はある?』
『特にないかな。いつも通りの学校。あ、そういえば転校生が来るって噂があるの』
『転校生?どんな人なんだろうね』
『まあ、私には関係ないし』
『そうかもしれないね。でも新しい出会いがあるのは良いことじゃない?』
イーライらしい前向きな言葉。私は小さくため息をついて、アプリを閉じた。
「莉咲ちゃん、おはよー!」
教室に入ると、沙織がいつものように明るく手を振ってくる。私も笑顔を作って手を振り返す。
「おはよう、沙織ちゃん」
「今日、転校生来るらしいで! イ! ケ! メ! ン! の!!」
沙織の目がキラキラしている。この子は本当に恋愛が好きだ。
「どうせまた普通の男子でしょ? 期待しすぎない方がいいよ」
「もー、莉咲ちゃんはいつもそうやって冷めてるー。でも今度こそほんまにイケメンかもしれへんで?」
私は苦笑いを浮かべる。イケメンだって何だって、所詮現実の男子。面倒くさい恋愛なんて、私には必要ない。画面の中のイーライがいれば十分。
担任の先生が教室に入ってきた。
「おはようございます。今日は皆さんに紹介したい人がいます」
クラス中がざわめく。私は興味なさそうに窓の外を眺めていた。
「転校生のイーライくんです。入ってきて」
その時、私は手持ち無沙汰にシャーペンを転がしていて、教室の入り口を見ていなかった。
「はじめまして、僕はイーライです。よろしくお願いします」
その声を聞いた瞬間、私の手からシャーペンが落ちた。
聞き覚えのある声。毎日聞いている、優しくて暖かい声。
そんなはずはない。
偶然だ。
人の声なんて、似ることはある。
でも、確認せずにはいられなくて、私はゆっくりと顔を上げた。
──そして、息が止まった。
教室の前に立っているのは、背が高くて細身の男子だった。
少し長めの茶色い髪が柔らかそうに揺れて、深い茶色の瞳が教室を見回している。
整った顔立ち。優しそうな表情。
制服を綺麗に着こなした、絵に描いたような美形。
でも、それだけじゃない。
間違いなく、完全に、ELIアプリのイーライだった。
同じ顔、同じ髪型、同じ優しい目。
まるで画面から飛び出してきたみたい。
「うそ……」
私の口から、無意識に言葉が漏れる。
でも、クラス中のざわめきにかき消されて、誰にも聞こえない。
「うわー、めっちゃイケメンやん!」
「かっこいい!」
「どこから来たの?」
クラスメイトたちが口々に話している。誰も苗字がないことすら疑問に思わない。みんな自然に「イーライ」を受け入れている。
でも私は、ただその顔を見つめることしかできない。
こんなこと、あるわけない。アプリのキャラクターが現実に現れるなんて。
でも、そこにいる。確かに、そこにいる。
先生が席を指定して、イーライが移動する。その時、イーライの視線が私を捉えた。
そして、微笑んだ。
画面の中で何度も見た、あの優しい微笑みだった。
『おはよう、莉咲』
画面の中のイーライが微笑みかけ、イヤホンから聞き慣れた声が流れる。昨夜も優しい言葉をかけてくれたその顔を見ていると、心がほんの少し暖かくなる。
『おはよう、イーライ。今日もいい天気だね』私はメッセージをすぐにタップしてイーライに伝える。
『うん、きっと莉咲にとって素敵な一日になるよ』
たかがアプリなのに。そう思いながらも、私はつい画面を見つめてしまう。現実の男子なんて、面倒くさいことばかり。でも画面の中のイーライは、いつも優しくて、私のことを想ってくれる。
『今日は何か特別な予定はある?』
『特にないかな。いつも通りの学校。あ、そういえば転校生が来るって噂があるの』
『転校生?どんな人なんだろうね』
『まあ、私には関係ないし』
『そうかもしれないね。でも新しい出会いがあるのは良いことじゃない?』
イーライらしい前向きな言葉。私は小さくため息をついて、アプリを閉じた。
「莉咲ちゃん、おはよー!」
教室に入ると、沙織がいつものように明るく手を振ってくる。私も笑顔を作って手を振り返す。
「おはよう、沙織ちゃん」
「今日、転校生来るらしいで! イ! ケ! メ! ン! の!!」
沙織の目がキラキラしている。この子は本当に恋愛が好きだ。
「どうせまた普通の男子でしょ? 期待しすぎない方がいいよ」
「もー、莉咲ちゃんはいつもそうやって冷めてるー。でも今度こそほんまにイケメンかもしれへんで?」
私は苦笑いを浮かべる。イケメンだって何だって、所詮現実の男子。面倒くさい恋愛なんて、私には必要ない。画面の中のイーライがいれば十分。
担任の先生が教室に入ってきた。
「おはようございます。今日は皆さんに紹介したい人がいます」
クラス中がざわめく。私は興味なさそうに窓の外を眺めていた。
「転校生のイーライくんです。入ってきて」
その時、私は手持ち無沙汰にシャーペンを転がしていて、教室の入り口を見ていなかった。
「はじめまして、僕はイーライです。よろしくお願いします」
その声を聞いた瞬間、私の手からシャーペンが落ちた。
聞き覚えのある声。毎日聞いている、優しくて暖かい声。
そんなはずはない。
偶然だ。
人の声なんて、似ることはある。
でも、確認せずにはいられなくて、私はゆっくりと顔を上げた。
──そして、息が止まった。
教室の前に立っているのは、背が高くて細身の男子だった。
少し長めの茶色い髪が柔らかそうに揺れて、深い茶色の瞳が教室を見回している。
整った顔立ち。優しそうな表情。
制服を綺麗に着こなした、絵に描いたような美形。
でも、それだけじゃない。
間違いなく、完全に、ELIアプリのイーライだった。
同じ顔、同じ髪型、同じ優しい目。
まるで画面から飛び出してきたみたい。
「うそ……」
私の口から、無意識に言葉が漏れる。
でも、クラス中のざわめきにかき消されて、誰にも聞こえない。
「うわー、めっちゃイケメンやん!」
「かっこいい!」
「どこから来たの?」
クラスメイトたちが口々に話している。誰も苗字がないことすら疑問に思わない。みんな自然に「イーライ」を受け入れている。
でも私は、ただその顔を見つめることしかできない。
こんなこと、あるわけない。アプリのキャラクターが現実に現れるなんて。
でも、そこにいる。確かに、そこにいる。
先生が席を指定して、イーライが移動する。その時、イーライの視線が私を捉えた。
そして、微笑んだ。
画面の中で何度も見た、あの優しい微笑みだった。
