転校生はAI彼氏。


 家への道のりを歩きながら、私は今日一日を振り返った。

 沙織の恋バナ。

 柚木の気遣い。

 みんな普通に恋愛を楽しんでいるのに、私だけどうしてこんなに冷めてるんだろう。


(みんな簡単に『恋愛』って言うけど)


 所詮は一時的な感情でしょ?

 最初はときめいて、楽しくて、でも結局は冷めて終わる。

 期待して、傷ついて、後悔して。

 そんなことを繰り返すくらいなら、最初から期待しない方がずっとマシ。

 自分の部屋に着いて、私はベッドに横になった。

 スマホを手に取って、またELI(イーライ)アプリを開く。


『おかえり、莉咲』

 イーライが微笑んでいる。


「ただいま」

 私は画面に向かって呟いた。


(AIの方が安全だよね)


 裏切られることもない。

 傷つけられることもない。

 期待を裏切られることもない。



 でも……



(これって、逃げてるだけなのかな)



 その疑問は、またすぐに心の奥に押し込んだ。

 明日もきっと、いつもと同じ日常が続く。

 沙織の恋バナも、柚木の気遣いも、私の冷めた心も。

 何も変わらない、いつもの日々。


(転校生か……)


 沙織の言葉を思い出す。

 でも、どうせ大したことないでしょ。

 みんなが騒ぐだけ騒いで、結局はいつもの日常に戻る。

 私の心が動くことなんて、ありえない。


 そう思いながら、私は目を閉じた。


 スマホの画面では、イーライがじっと私を見つめている。

 まるで何かを言いたそうに。

 でもそれは、きっと私の錯覚。

 だって彼はAI。

 プログラムされた反応をしているだけ。

 それでも、現実よりずっと……


「おやすみ、イーライ」

『おやすみ、莉咲。また明日』


 画面が暗くなる。

 明日もきっと、いつもと同じ日常。


 そう思っていた。


 まさか、その日常が一変することになるなんて、その時の私は知る由もなかった。