転校生はAI彼氏。

 雨の匂いが、廊下の奥まで漂ってくる。

 昼休みのチャイムが鳴っても、教室から出る気になれない。いつもなら屋上に行くのに、今日は無理。

「また雨かあ」

 窓の外を見つめながら、小さくため息をついた。

 雨粒が窓ガラスを伝って、教室の景色を歪ませている。なんだか、自分の心境みたい。

 最近、屋上に行くことが多くなった。転校生が来てから、なんだか教室にいるのが落ち着かなくて。



 イーライ。



 彼の名前を心の中で呟くだけで、なんだか胸がざわざわする。

 でも、今日は雨。屋上には行けない。

「図書室でも行こうかな」

 ぶつぶつ呟きながら立ち上がる。図書室なら静かだし、人も少ない。今の私には、ちょうどいい。






 図書室に足を向けると、意外にも人がいた。

 というか──

「イーライ」

 本棚の前で、一冊の本を手に取っているイーライが振り返る。

 午後の薄い光が窓から差し込んで、彼の横顔を柔らかく照らしている。

莉咲(りさ)。ここにいたんだ」

 振り返った彼の表情が、ぱっと明るくなる。

「私の方こそ。雨で屋上に行けないから、図書室に来たんだ」

「僕も同じだよ。でも図書室も静かでいいね」

 そう言って、彼は微笑む。

 なんだろう、この感覚。心がすうっと軽くなるみたい。

 さっきまでの憂鬱な気分が、まるで嘘のように消えていく。


「それ…『はてしない物語』?」