転校生はAI彼氏。




 授業が終わって、なぜかまた屋上に足が向いてしまった。

「あ……」

 イーライがもういた。

 夕日に照らされて、茶色い髪が金色に光っている。
 横顔のラインがとても綺麗で、長い睫毛が影を作っている。
 
 制服のブレザーを脱いで、シャツ姿で手すりに寄りかかっている姿が、
 なんだかとても大人っぽく見える。

「莉咲」

「な、なに?」

 イーライが振り返る。夕日の光が彼の瞳を照らして、
 深い茶色が琥珀色にきらめく。

 背が高いから、少し見上げる形になって、
 ドキドキしてしまう。

「君と、こうして夕日を見ていると……」

 そう言いながら、髪を軽く手で払う仕草。
 その自然な動作さえも、画面の中で見たものと同じで……

(この人、本当に……)

 胸が苦しくなる。


「君の声を聞くだけじゃなく、君の横顔も見ることができる。
君と同じ夕日を見て、同じ時間を過ごすことができる」

「でも…そんな……」

「これが僕にとって一番大切なことなんだ、莉咲」


 おちつけ、私…!
 スマホを取り出して、ELI(イーライ)アプリを起動しようとする。

(だって、イーライは私が、
私の好きなように、
私を好きになってくれるように、
私が設定した──ただのAIキャラでしょ)

 アプリが起動し、読み込みが終わっても、画面の中にいつものELI(イーライ)は現れない。

「…………」

 からっぽの画面。エラー? こんなこと今まで一度もなかったのに。


「莉咲。君が話したくなったら、僕はいつでもここにいるから」

「……!」

 いつも私が沈黙すると、アプリのELI《イーライ》は同じことを言ってくれた。
 今は目の前にいる彼が、同じ顔、同じ声で。