転校生はAI彼氏。


「一緒にお昼食べない?」

 昼休みに、イーライが自然に誘ってくれた。

「う、うん……」

 屋上に向かう途中、なんだか緊張してしまう。画面越しじゃない。本当に隣を歩いている。

「君がよく話してくれたカレーパン、一緒に食べてみたくて買ってきたんだ」

「覚えてるんだね……」

 屋上のベンチに並んで座る。風が心地よくて、なんだか落ち着く。

「ここが君のお気に入りの場所なんだね」

「うん……人があんまり来ないから、静かで」

「君がいつも『屋上から見る景色が好き』って話してくれてた。実際に見ると、確かに綺麗だね」

 イーライも同じ景色を見ている。私と同じものを見て、同じ風を感じて……

(不思議……画面越しじゃないって、こういうことなんだ)

「莉咲」

「なに?」

「君と、こうして話せて……本当に嬉しい」

 その言葉に、なんだか胸が温かくなった。

 でも同時に、混乱も大きくなる。

 (この人、本当にアプリのELI(イーライ)なの?)





「ただいま」

 返事を聞き流しながら、私は自分の部屋に駆け込んだ。

 ベッドに倒れ込んで、慌ててスマホを取り出す。「ELI(イーライ)」のアイコンをタップ。

『莉咲、お疲れさま。今日はどうだった?』

 いつものELI(イーライ)が、いつものように微笑んでいる。


 「その……ちょっと変なことがあって」

『大丈夫? 詳しく聞いてもいい?』


 なぜだろう。今のこの会話が、どこか薄っぺらく感じられる。

 昼休みのイーライの声、手の温かさ、目を見つめ合った時の心臓の鼓動。

 それに比べて、このELI(イーライ)との会話は――

「……ごめん、また明日」

 アプリを閉じて、私はスマホを胸に抱きしめた。

 何が起きているの、私?