雲の迷路を抜けたアリアとベルはクリスマスについて話していました。

「やっぱりケーキよ!それとお肉とクリームシチュー。クリスマスは豪華な料理がなければ始まらないわ」

食いしん坊なベルはクリスマスパーティーに出てくる料理を想像してヨダレを垂らしています。

「ふふっ、ベルらしいね」

「そういうアリアはクリスマスって聞いて何を思い浮かべるの?」

「うーん。私は家族と過ごしたり、友だちとプレゼント交換したりするのが好き」

「アリアは毎年魔女や魔法使いのみんなとクリスマスを過ごしていたわね」

「うん。でも今年はみーんな修行に出ていて、ひとりぼっちのクリスマスになるな…」


魔女や魔法使いは生まれた町を離れて修行の旅に出ます。しかしアリアは魔法を上手く使えないので、まだ旅に出る許可をもらえることができませんでした。

自分だけ置いてけぼりになって少し寂しい思いをしていました。そんなアリアにベルはそっと寄り添います。

「アリアにはアタシがいるわよ」

「…ベル」

「王女様に最高のクリスマスをプレゼントするんでしょ?だったらそんな悲しい顔してちゃダメ。アリアの魔法は誰かを笑顔にするためにあるのよ」

「でも、修行に出れないダメダメな魔女が王女様を笑顔になんてできないよ」

「アリアの意気地無し!ちょーっと周りより出遅れたからって弱気になるなんてアリアらしくないわ。花の種がポップコーンになっても、たくさん魔法の練習をして、努力してきたじゃない」

そうです。失敗してもひたむきに頑張ってきたアリアを誰よりも近くで見てきたのはベル。

ベルは自分に自信が持てなくなっているアリアを励まそうと必死でした。

「自信もって。アリアは王女様に最高のクリスマスを届けられるってアタシ信じてる。そのためにはあなたが笑顔じゃないと」

ベルが肉球でアリアのほっぺをプニプニとしました。友だちからの言葉に励まされたアリアは次第に笑顔を取り戻していきました。


「私、ちょっと自信無くなってた。修行の旅に出た友だちと今年はクリスマスを過ごせないって思ったら寂しくて…」

「…アリア」

「でもベルがいる。ベルがいてくれるから私は寂しくないよ。一緒に王女様のために最高のクリスマスを届けよう…!」

「それでこそアリアよ。さぁ、行きましょう。王女様が住むお城までもう少しよ!」

「うん!」


ベルのおかげで元気を取り戻したアリアは再び立ち上がって、箒に乗ってお城を目指して飛び立ちました。

アリアたちが次に目指すのは魔法の森です。

そこには樹齢2500年の巨木と呼ばれている大きな木があって、クリスマスの時期になるとふしぎな木の実が実るとウワサされています。

「谷を超えた先が魔法の森よ」

雲の迷路と魔法の森の間には深い谷があります。崖があり、落ちたらひとたまりもありません。

でも大丈夫。アリアは魔女なので魔法の箒でひとっ飛び!

谷を超えて魔法の森に向かおうとした、その時でした。


「だ、誰かー!助けてーっ!!」


崖の方から助けを求める声が聞こえてきたのです。


「ベル」

「えぇ。あの向こうよ!急ぐわよアリア」

「うん!」


アリアはもうスピードで声がする方に向かいました。ベルと共に声の主を探していると、今にも崖から落ちそうになっている女の子を見つけました。


「いた!待ってて。すぐに助けるから…!」

「アリア魔法よ!」


ネックレスの宝石を魔法の杖に戻してアリアは呪文を唱えます。


「風よ吹け!Let's・magic!(レッツ・マジック)スカイ・ウィンド!」


アリアが放った風の魔法が女の子を宙に浮かべて助け出しました。

箒から降りて、女の子の安否を確認します。


「大丈夫?ケガはない?」

「怖かったー。助けてくれてありがとう」


女の子は立ち上がってピンク色のワンピースに付いた土ぼこりをほろいます。


「私はアリアよ。こっちはベル」

「ベルよ。よろしく」

「魔女のアリアと猫のベルね。ワタシは…エマよ」

「エマ。素敵な名前ね」

「ありがとう」

エマはお城の近くに住む女の子。今日は魔法の森に遊びに来ていました。


「ねぇねぇ、エマ」

「ん?なーに?」

「どうして森じゃなくて、谷まで来ていたの?」

その質問にエマの表情が曇りました。

ベルはこの谷は崖が多くて危険なことを知っていました。だからアリアには箒で空を飛んで移動することを勧めていたのです。


「…実はね、ワタシ家出したの」

「家出!?」

アリアたちは驚きました。

「今日はワタシの10歳の誕生日で、クリスマスも兼ねてパーティするってパパとママと約束していたの。でもね、お友だちも来るのにあまり自由に過ごせないんだ」

「誕生日なのに自由に過ごせないってどういう事?」

「そのパーティーにはパパとママがお世話になっているスゴく偉い人たちも来るからちゃんと挨拶するんだよって言われて…。ワタシ、もっと楽しい誕生日パーティーをしたかったのに。これじゃあ、いつもと分からないよ…」


それを聞いてアリアは何となくエマの気持ちを察しました。

誕生日は年に一度の素敵な日。それなのに家族や友だちと楽しく過ごせないのは悲しいことを。

アリアは今年のクリスマスは友だちと過ごせないことをとても寂しく思っていました。きっと、エマも同じ気持ちなのでしょう。

「エマ」

「アリア?」

アリアはエマに手を握りました。

「私もね、今年は友だちとクリスマスを過ごせなくて寂しいなって思っていたの」

「アリアも!?」

「うん。でもね、私にはベルがいる。そして、エマもいる」

「ワ、ワタシ!?」

エマは目を大きく見開いて驚きます。


「実は私、今年はお城に呼ばれているの。王女様に最高のクリスマスを届けるお手伝いをしてって頼まれていて」

「えっ?お城にお呼ばれされているの?」

「そうなの。だからエマも一緒に行こうよ!3人で王女様にクリスマスを届けよう。そしたらエマも寂しくないかな〜って。えへへ…ダメ、かな?」

「ううん、嬉しい…!ワタシ、魔女とクリスマスを過ごすの夢だったの」

「そうなんだ…!じゃあ、エマと王女様のために頑張るね!ねっ、ベル」

「えぇ。誰かを笑顔にすることは立派な魔女になるための第一歩よ!」

「誰かを笑顔に…。それ、とっても素敵ね!」

笑顔が戻ったエマの目にはもう、涙はありません。これも友情という名の魔法なのでしょうか。

いいえ、これはアリアの優しさです。誰かを思う、アリアの気持ちがエマを笑顔にしたのです。

さてさてアリア、ベル、エマの3人は一緒にルミエール王国を目指すことになりました。

次の目的地である魔法の森ではどんなマジカルな冒険が3人を待っているのでしょうか。